お昼、ご近所にあるフレンチのお店に行った。
ここは低価格で、なおかつ美味しい料理が出る。
シェフは、若き日に都内の有名ホテルで修行された腕のある職人の方だ。
ただ、気になっていたのが、ランチのおすすめメニューにハンバーグの日が多いのである。
ハンバーグは元来ドイツ料理であり、もちろんフレンチにも取り入れられているが、いつも“なぜ?”という疑問があった。
その日もおすすめがハンバーグだったので、それを注文してから軽くワインを飲みつつ、その謎を解明する名探偵の気分で思考を巡らしていた。
するとそのタイミングで、常連のご高齢客が同伴の客に、「このハンバーグ美味しいわね。先日のランチのポークソテー、ちょっと固かったけど」などと話していた。
その瞬間、謎が解けた。つまりこのお店の常連さん(主にご高齢者)にとっては、硬いものがだめという理由があったのだ。
つまりは、歯の問題であろう。
自分は歯が丈夫なので、そこにまで考えが至らなかったのだ。
それで牛ハラミステーキなども、赤ワインで長時間煮込んで柔らかく仕立てられている。
このお店のように、お客に合わせて調理方法を変えるという気配りが、優しいと思った。
その時ふと、学生の頃に通っていた定食屋のおばちゃんの気配りを思い出した。
病み上がりだという学生に、「あんたはいつもは大食いやけどな、今日だけはご飯はおじやにしとき」と言い、一方的におじやを作って出していた。
少し恥ずかしげにおじやを食べていたその学生の顔が、今でも目に浮かぶ。
こういう配慮をなんと呼ぶのだろう。
名付けようのない、本来は当たり前の暖かい思い。
フレンチのお店で、自分は帰り際に「ごちそうさま。どうもありがとうございます」と伝えると、シェフはなぜか「お疲れ様です」と頭を下げた。
その日は、これだけが新たな謎として残った。