この季節になると、街角でアジサイの花を見かける。

 

 アジサイの花が特別好きというわけでもないが、とても気になる花だ。

 

 

 ずっと以前、近くに小さな活版工場があった。

 

 そこの社長は高齢の方であったが、毎朝早くから工場内でテキパキと働いておられた。

 

 工場の前を通ると、輪転機の動く音が聞こえ、それに安心感のようなものを覚えた。

 

 その工場の前には小さな植え込みがあって、今の季節になるとアジサイの花が咲いていた。

 

 だからというわけではないが、自分は梅雨どきに咲くアジサイを見かけると、輪転機の音とインク臭や工場前に置かれた印刷用紙の匂いを思い浮かべる。

 

 その工場は知らぬ間に閉業し、数年以上使われていなかった。

 

 それからしばらくが経ち、跡地には小さなBARが出来た。

 

 自分はそこの客となり、出入りするようになっていたが、心優しいBARの女店主は、アジサイの植え込みをそのまま残しておいた。

 

 そして、そのBARも知らないうちに閉店したが、今でもアジサイの植え込みだけは残っている。

 

 

 雨の夜、傘をさしてその前を通ると、街灯の下で大輪のアジサイが、雨に打たれて頭を左右に振っていた。