暑い中、自転車を走らせていると、突然クランク(ペダルと本体をつなぐ部品)がポロリと落ちた。

 

 本体のネジが外れただけなので、工具があればすぐに直せるのだが、あいにく手元にはなく、仕方ないので自転車屋で直してもらおうと、自転車を押しながら商店街を歩いた。

 

 

 初めて来る商店街だったため、自転車屋がどこにあるかわからず、しばらくウロウロしていたが、ようやく自転車屋の幟が見えた。

 

 声をかけると、店の奥からキャップをかぶった80代くらいのおじいさんが出てきて、こっちの自転車を見ながら「修理ですか」と聞いてきた。

 

「はい、クランクが取れてしまって」と言うと、そのまましゃがみこみ、足元に投げ出されていた工具を使って手際よく、1、2分で修理してくれた。

 

「ありがとうございます。料金の方は?」と聞くと、おじいさんは「このくらい、別に料金なんていらないよ」と笑顔で言う。

 ただ、それでは悪いので、色々聞いて500円ばかり払って帰った。

 

 

 帰路、ペダルを漕ぎながら、ああいう人もまだいるのだな、となんだか嬉しくなった。

 

 こちらは本当に助かったので、ありがたかったのだが、店主のおじいさんにとってはちょっと手を動かしただけで、本気の仕事ではなかったのだろうか。

 

 自分は、店主のおじいさんの照れたような笑顔と、今まで出会ったそんなシャイで優しい人達の笑顔を思い出した。