最近見た夢の話である。
ピエロのKさんは、お星様を磨くのが仕事であった。
Kさんは、そんな自分の仕事をたいそう誇りに思っていた。
朝日が昇る頃、Kさんは天空に広がるお星様を集めてまわり、それをいったん地上に下ろしてから、天鵞絨の布でひとつひとつ丁寧に磨き上げるのだった。
ピカピカに磨かれたお星様は、日が沈む頃になるとKさんたちピエロが長い梯子を使って、再び夜空に取り付ける。
彼は、それを何十年と続けていた。
だが、ある日のこと。
星の取り付け作業中、Kさんは梯子から足を踏み外し、地上に落下してしまったのだ。
ちょうど公園でラジオ体操をしていたおばあさんたちの前に落下したKさんは、驚いているおばあさんたちに向かって、ヨロヨロと立ち上がりピエロのおどけた仕草をしてみせた。
Kさんは、足を引きずりながらその場を離れたが、とんでもない失態をしてしまったものだ、と思った。
想像通り、しばらくするとKさんの携帯には「仕事はクビ」という通達が入った。
これで、この仕事はクビになってしまった。俺は次から何をして生きて行けばいいのだろうか、と彼は公園のベンチに腰掛けて頭を抱えた。
すると、ちょうどその時、Kさんの前を山高帽子を被ったヒゲの紳士が通りかかった。
その紳士は、Kさんにこう声をかけた。
「どうしなすった、ピエロさん。そんな深刻そうな表情をして。その顔はピエロにはふさわしくないよ」
思いつめていたKさんは自分の事や、しでかしてしまったアクシデントの事などを、堰を切ったように山高帽の紳士に話した。
山高帽の紳士は、Kさんにこんなことを言った。
「それじゃ、うちのサーカス団で働けばいい。ちょうどピエロに欠員が出ていたところだ。私たちはこの公園で興行を打っているので、一緒についてくるといいよ」
意外な展開にKさんは驚いたが、その紳士の後についてサーカス団のテントに向かった。
紳士は、サーカス団の団長だった。
そして団長の紹介で、巨体の怪力男や空中ブランコ乗りの夫婦、火吹き少女、占い師の老婆など団員からの歓迎を受け、Kさんはそのままこのサーカス団で働くこととなった。
Kさんは自分の出し物を考えたが、以前やっていた仕事をネタに、「地上に落ちて来たピエロ」という出し物を思いついた。
それは、足元がふらつく長い梯子を使って、Kさんが必死にサーカスの天幕にブリキ製の星をつけてまわるも、途中で足を踏み外し、そのまま地上に落下するというコント芸だった。
もちろん下にはネットが張られているので、怪我はしない。
そしてKさんは、そのネットからバツが悪そうに飛び降りて、観客に向かって滑稽な仕草で一礼をするという流れであった。
その緊張と緩和が受けて、Kさんの芸は人気の出し物となった。
しかし、団員も観客も誰も気づかないことがあった。
Kさんの頭頂部には、彼が天空の梯子から落下したときに、一緒に落ちて来たお星様が突き刺さったままになっているということを。