最近見た夢の話である。

 

 

 自分は、強い風が吹きつける浜辺を歩いていた。

 

 砂浜に波が寄せては返し、海は薄曇りの空を映し込んでいる。

 

 しばらく歩いていると、砂丘のようになった場所に、赤いハマナスの花が咲いていた。

 

 ハマナスは北海道では自生のものをよく見かけるが、この辺では珍しいなと思いながら近づいてみると、群生したハマナスの低木の陰にひとりの若い女が立っていた。

 

 いつからここにいたのだろう、さっきは気がつかなかったが、と不思議に思いながら、女に向かって軽く会釈をした。

 

 すると女は、

 

「この辺で、ハマナスの花が咲くのは珍しいでしょう」

 

 と、こちらに話しかけてきた。

 

 おかしいな、自分が思ったことと同じことを話している、と気になりながらも、

 

「一度、北海道の浜でハマナスの花が群れて咲いているのを見たことがありますが、ここのハマナスも綺麗ですね」

 

 と返事をすると、その女は、

 

「ハマナスのことを知っている人と出会えて、嬉しいです」

 

 と言いながら、足元辺りからすうっと消えて行った。

 

 自分は驚いたが、あの女はハマナスの精だったのだろうかと思い、目の前に咲くハマナスの花を手折るのはやめておいた。

 

 

 しばらく歩くと、舗装された道に出たので、そのまま散歩を続けていると、小さな居酒屋を見つけた。

 屋号は「はまなす」とある。

 風にふらふらと揺れる赤提灯が、なんとなく旅情をそそる。

 

 自分は、居酒屋の暖簾をくぐった。

 

 薄暗い店内に入ると、数人のお客がいて、一斉にこちらを振り向いた。

 

 しばらくすると、奥から店の娘さんらしい人が出てきた。

 

 すると驚いたことに、その娘さんは先ほど、自分が浜辺で会った女とうりふたつだった。

 

「あれ、先ほどあそこの浜辺でお会いしていますよね。ハマナスの花が咲くところで」

 

 と自分が伝えると、娘さんは、

 

「ああ、あの女に会いましたか。あの女はわたしとそっくりに化けて人をたぶらかすのですが、実は人間ではありません。ハマナスの精なのです」

 

 と、そんなことを言う。

 

「へえ、やっぱりそうでしたか。しかし、本当にそっくりですね」

 

 そんな言葉を返すと、娘さんは、

 

「はい。そうやってこちらのお店に誘導してくるのです。あのハマナスはもともとうちの店の前に咲いていたものですが、徐々に移動して浜辺の方で咲くようになったのです。うちの屋号が『はまなす』なのもそのハマナスが由来なのです」

 

 と言う。

 

「じゃあ、ハマナスはもしかしたら、こちらのことを懐かしんで、あなたに化けて出ているのかもしれないですね」

 

 と自分が言うと、娘さんは、そうですかねぇ、と言いながら、自分の目の前で一個の赤いハマナスの実と化してしまった。

 

 おかしいと思い、扉を開けて外を見ると、店のぐるりを取り囲むように、赤い花を咲かせたたくさんのハマナスが群生し、泣き叫ぶような切ない声をあげながら、陽炎のように揺らめいていた。