昔、近所のコンビニでよく見かけるおじさんがいた。

 

 そのおじさんはニッカボッカーを履き、足元は地下足袋、Vネックの長袖Tシャツに、頭にはハチマキというスタイル。

 

 さらに顔は勝新太郎そっくりで、豪快にガハハと笑った。

 

 歳の頃は、60前後くらいだったろうか。

 

 いつも夕方になると、コンビニのバイト店員を相手に楽しそうに雑談していた。

 

 バイト店員によると、おじさんは近所に住んでいる肉体労働者で、よくお店に来ては缶ビールを買い、お店で飲んで行くと話していた。

 

 おじさんは、密かに「カツシンさん」と渾名されていたようであったが、自分がお酒を買いに行ったときにもこちらに声をかけて来た。

 

「お兄ちゃん、こんな明るいうちからお酒かい。ええご身分じゃのう」

 

 一瞬、『あんたもだろう!』と思ったが、そんなカツシンさんの口調にはどこかユーモアがあり、思わず吹き出しそうになったものだ。

 

 当時は、時代もまだユルくコンビニ店内での飲酒も許されたのか、それともカツシンさんの奇妙な魅力に店長がほだされたためだろうか、確かにカツシンさんがいると、店内はなぜか不思議な安心感に包まれるのだった。

 

 そしてそのコンビニに、もうひとりの目立った常連客がいた。

 

 その人は、午後の遅いくらいか深夜によく来店していた。

 

 当時流行した、いわゆるボディコンファッションの女性で、20代後半くらいだろうか、長身で髪の長い美人であった。

 

 いつも真っ赤なボディコンドレスに身を包み、コンビニで大きな声をあげながら店員と喋っていた。

 

 この人も気軽にこちらに話しかけてくれるので、外で会っても挨拶を交わしていた。

 

 彼女は、夜のお店で働いているらしく、出勤前などにコンビニに立ち寄って、その日の用事を済ませているようだった。

 

 そして、この人に密かに付けられた渾名は、「ボディコンさん」。

 

 年寄りばかりの地域で、こんな派手な格好の人はあまり見かけないし、目立つためか渾名もストレートだったのである。

 

 自分はカツシンさんとボディコンさんのふたりと、なんとなく知り合いになってしまい、コンビニで会うとそのまま立ち話をしていた。

 

 おふたりの、今までの人生についても聞かされた。

 

 カツシンさんは青森出身。集団就職で東京に出て来てから、さまざまな現場で働いている。

 

 ボディコンさんは博多出身で、地元の高校を卒業して上京。ビジネスの専門学校で経理を学んだという。簿記2級の資格も持っているそうだ。

 

 その後しばらくするうち、たまにコンビニの前でカツシンさんとボディコンさんが楽しそうに笑い合っている姿を見かけるようになった。

 

 それから少し経ち、いきなりカツシンさんとボディコンさんの姿を見なくなってしまった。

 

 くだんのコンビニに行った折りに、バイト店員に彼らのことを聞いてみた。

 

「〇〇さんと〇〇さん(ふたりの名前)、最近見かけないね。お店に来てる?」

 

 こう自分が尋ねると、店員は意外なことを言った。

 

「あー、〇〇さんたちね。知らなかったんですか、あのふたりどうやら、くっついちゃったみたいで、今よりもっと広い部屋に引っ越すって、どこかへ引っ越して行きましたよ」

 

「じゃあ、結婚でもしたのかな」

 

「それはどうか知りませんけど、深夜にあのふたりが手を繋いでお店に来て、イチャイチャしながらそんな話をして行きましたから」

 

 店員は、いつもの気の抜けた調子で話した。

 

 自分は、狐につままれたような気がしたが、この愛すべきカップルの誕生に、ささやかなエールを送った。

 

 時代は昭和が終わり、平成に移った頃であった。

 

 

 ※過去記事に、加筆修正したものです。