以前、飲み会でお会いしたことのあるK子さんは、いわゆる“視える人”のようで、街を歩いていたりすると、たまにそういったものを目撃してしまうそうである。
それはすれ違いざまに、すうっと姿が消えてゆくので、そのときに初めて霊だとわかるというのだ。
つまり、それまでは人間と見えているわけだ。
いつぞやに、こんな体験があったという。
会社の忘年会に出たK子さん。
二次会に参加することになり、同僚たちと会場のカラオケ店に向かってゾロゾロ歩いていたという。
すると列の一番後ろに、見慣れぬ痩せた女性がうつむき加減でついて来る。
(あれ? あんな人、忘年会にいたかなあ)
K子さんは不審に感じたが、彼女が何者であるのかは深く考えなかった。
その女性は、酔っ払っているのだろうか、左右にフラフラと揺れているように見えた。
(彼女、大丈夫?)
ちょっと心配になったが、K子さんは極力その女性の方は見ないようにして先を歩いた。
カラオケ店に到着した同僚たちは、さっそく順番に十八番を歌い始めた。
人前で歌うのが苦手なK子さんは、もっぱら賑やかしの掛け声と拍手のみだった。
(そういえば、さっきの女の人はもう帰ったかしら)
あたりを見回してみると、例の女性はK子さんの向かいの席に座り、同僚の歌う「ド・キ・ド・キ☆モーニング」の歌声に合わせて体を左右に振っていた。
その瞬間、ちらりと女性と目が合ってしまったK子さん。
(なんだ、楽しそうにやってるじゃない。よかった)
K子さんはその女性に向かって、軽く手を振った。
二次会は大いに盛り上がり、しばらくしてお開きとなった。
それから、同僚たちは帰路についた。
K子さんはお酒も入っていたので、いいタイミングで走って来たタクシーを止めて乗車した。
「どちらまで」
白髪の運転手が声をかける。
行き先を告げ、運転手と世間話をしながら到着までの時間を潰した。
会話の最中、運転手はバックミラー越しに、なぜか何度もK子さんの隣の空席を見ているようだった。
「着きました」
運転手が、居眠りをしかけていたK子さんに声をかけた。
お礼を言ってからタクシーを降り、マンションに向かうK子さん。
その間、運転手はバックミラー越しに、ずっとK子さんを見つめていたという。
自宅に入って部屋着に着替えると、すぐシャワーを浴びた。
時間はもう零時を回っていたが、楽しかった忘年会を思い出しながら、缶酎ハイを冷蔵庫から出して飲んだ。
しばらくテーブルで酎ハイを飲んでいたK子さんだが、いきなりドンドンという大きな音が2回響いた。
その音は、床下からだった。
この部屋は1階であった。
誰かがさせたとしたら、地下からということになる。
急に嫌な予感がしたK子さんは、慌ててベッドに飛び込んだ。
怖いので、電気は点けっぱなしにした。
それからどれくらい時間が経ったかは忘れたが、布団を頭から被っていたK子さんに女性の鼻歌が聞こえて来た。
(えっ、ええっ‥‥‥)
こわごわ、鼻歌の聞こえたテーブルの辺りを、布団の隙間から覗いてみたK子さん。
テーブルの上には、飲みかけの缶酎ハイが置いてあった。
そしてテーブルの椅子には、忘年会の時に見かけた女性が、じっとこちらを見つめて座っていた。
(あの人、霊だったんだ‥‥‥)
やがて女性の霊は、鼻歌で「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のメロディーを口ずさみながら、体を左右にユラユラと揺すってみせた。
怖いような、笑ってしまうような話だ。
それにしても、K子さんと女性の霊に対してだが、どこか親しみを覚えるのは、自分だけだろうか。
そして、運転手の謎の反応なのだが、もしかしたら彼はもうひとりの“視える人”だったのかも知れない。
※過去記事に、加筆修正したものです。