東南には木星が輝き、夜も遅きになると冬の大三角形が姿を現わす。

 天頂付近にはペガサスやアンドロメダが謳い、アルフェラッツを伴った秋の大四辺形となる。

 

 20代の頃、自分はよく夜の散歩に出かけたものだ。

 その時には、決まっていつも気の利いた相棒がいた。

 

 

 大都会の夜空を見上げながら、11月の寒さでジャケットの襟を立てて、常になりそこないのポエムのような会話を相棒と交わしていた。

 

「あそこにある自動販売機だが、ちょっとあの光り方具合がね、あの一角だけ未来観光都市のようだね」

「さっきすれ違った黒猫だけど、目が赤と青と交互に妖しく光っていたが、その光源はタイレル社謹製の単三乾電池に違いない」

「あのBARの切れかかったネオンサインの点滅を見なよ。あれは実は土星に向けて送っているモールス信号なのかもしれない」

「こうやって君と歩いているとね、ふと僕は陸橋の階段の下あたりで、そのまま煙のように姿を消してしまうような気がするんだ」

 

 そんな相棒ととある夜、 D山にあった大正時代から建つモダンな佇まいのアパートメントの前を通りかかったとき。

 ふたりは、そのアパートメントの一角にちょっと不思議なお店を見つけた。

 

 思わず駆け寄ったふたりは、そのショウウィンドウに釘付けとなった。

 

 ショウウィンドウの中には薄暗い照明と共に、ボール紙で作られたそのアパートメントの模型が展示されていたのだ。

 我々がそんなものを見つけたら、飛びつくに決まっていた。

 

 ふたりは子どものように、ショウウィンドウのガラスに手を当てて、目をこらしながら展示物を眺めた。

 

 ボール紙製の模型は湿気で歪みながらも、正確にそのアパートメントの特徴を醸し出している。

 そして、その模型のアパートメントの屋上には、なんと大きな星が突き刺さっていたのだ。

 

 早速、この星はどこから来たものなのか、相棒とその出自について推理し始めた。

 

「この星は、今宵天上はるかをかすめて通るおうし座流星群からエスケープして来た素行不良のやんちゃ星だ」

「いや、もしかしたらこのアパートメントの寂しい住人だったのではあるまいか。こんなレトロでモダンなアパートだ。お星様がひとり紛れ込むことくらい、いともたやすいことなのではないかね?」

 

 そんな会話を交わしていると、そのアパートメントからつば広で土星のような帽子をかぶった女性が現れ、自分たちに笑顔で会釈した。

 

 驚いた我々は、慌ててその女性に頭を下げた。

 

 

 それから数日後に、もう一度ショウウィンドウを見に行ってみたが、すでにボール紙製の模型はなくなっており、その後数週間だったか、数カ月だったかは忘れたが、大正時代から様々な人生を目撃して来たアパートメントの解体工事が始まった。

 

 そして時を同じくして、自分の気の利いた相棒もいづこかへ姿を消してしまった。

 彼の言っていた通り、煙のごとく消え去ったみたいに。