夜の散歩に出かける。

 

 強い風のせいで、木立が大きな音を立てている。

 

 外灯の周りを1匹の蝙蝠が飛び交っており、頭上にその羽音が響く。

 

 何百匹もの集団で、うねるように飛行する蝙蝠の映像を見た事があるが、それ自体ひとつの生き物のようであった。

 

 今夜の蝙蝠はただ1匹だけが、寂しげに外灯の周りを羽ばたいている。

 

 獣のような、鳥のような妙に愛くるしい生き物。

 

 蝙蝠は「蚊喰鳥」とも呼ばれ、蚊を食べてくれる益鳥だと思われていた。

 

 江戸時代の着物の文様には、蝙蝠が描かれているものがあるが、中国では蝙蝠の絵柄は吉祥を呼ぶとの考えがあり、江戸庶民の間にもその考えが浸透していたのではないだろうか。

 

 特に、5匹の蝙蝠を描いたものは「五福」と呼ばれ、喜ばしいものと伝えられて来た。

 

 さらに蝙蝠のミステリアスな生態や特異な姿形から来るイメージも手伝い、粋な意匠であると思われたのだろう。

 

 そんな事を考えているうちに、さっきまでいた蝙蝠は、どこかへ飛び去ってしまっていた。

 

 薄曇りの隙間から見える明るい土星を、自分の食べ物場だと勘違いして夜空の彼方に飛んで行ったのだろうか。

 

 土星の輪をカリカリとかじる蝙蝠の姿が、ふと浮かんだ。

 

 

 ※過去記事に、加筆修正したものです。