連日の猛暑。
そんな日ほど、なぜか外出することが増えてしまう。
外に出ると、しゃがみこんでいる人を何人か見かけた。
自転車で宅配している人が、配達用バッグに頭を置き、木陰でうなだれている。
所用を済ませて、急いで自宅に避難。
人心地ついてから、台所で火を使わない軽い食事を作る。
ここは連日の冷製茶漬けと、もう一品、しゃきしゃきの水菜にしらすのふりかけとエビ天かすをまぶし、オリーブオイル、バルサミコ酢、白だしなどで作ったドレッシングを和えて。
夜になると少しは涼しくなるが、やはり熱帯夜のようである。
そういえば昨夜、買い物がてら散歩をしていると、目の前を小さな黒い影がふたつ、ちょろちょろと走って行った。
黒ネコの子どもだろうかと注視していると、その影は方向転換してこちらに戻ってきた。
そして足元まで来て、1匹は自分の方をじっと見上げた。
もう1匹は後ろ足で首筋を掻きながら、大きなあくびをした。
しかし顔をよく見ると、目が黒くつぶらで、口が長い。
「えーっ」と思わず声をあげた。
どうやら、生後2か月ほどのタヌキの子どもであるようだ。
そして、人間に慣れているのか、こちらに着いてくる。
野生動物の子どもに人間のにおいをつけると、親が警戒して育児を放棄してしまうという話を聞いていたので、さわりはしなかったが、とても愛くるしい表情でずっとこちらを見つめていた。
それにしても、こんな都心にタヌキがいるのだろうか。
よく考えてみると、その近くには古刹があり、もしかしたら親子でそこに棲んでいるのかもしれない。
確かに竹やぶがあったり、古い本堂もあるので、日中はそこに隠れているのだろうか。
そんな話を、不思議大好きなT子にすると、
「あー、この前、狸囃子の話を書いていたでしょう。あの太鼓の音、きっとその子たちがたてていたのよ。タヌキに招かれたんじゃないの」
と、言ってきた。
いや、あんなマメダじゃまだ狸囃子は無理だろう。もう少し大きくなってから、徳利を下げて酒屋に酒の買い出しに行くのが、精一杯じゃないかな、と返した。