お昼まで晴れていた空が、にわかにかき曇ったかと思うと、静かに雨が降り始めた。
Sさんは職場の窓から、そんな雨空を見上げながら、ため息をついた。
テレビでは、梅雨入りだとか言っていた。
これから毎日、こんな天気が続くのかと思うと、うんざりしてしまう。
彼女の席から窓を見下ろすと、ちょうどお向かいに古びた一軒家があり、その庭には可憐なアジサイの花が咲いていた。
Sさんは、アジサイの花を見るため、いつもその家の庭に目をやっていた。
今日も、そんなアジサイに癒されようと、目を向けた。
すると、そのアジサイの横に、ふたりの女性が立っているのが見えた。
ふたりとも喪服姿で、傘も差さずに庭の前に立っている。
(あれ、どこかでご不幸でもあったのかな?)
Sさんは気になりながらも、山ほど仕事が溜まっていたので、そのままパソコンへと向かった。
1時間ほど作業に没頭し、気分転換にお向かいのアジサイを眺めると、女たちはまだ庭の前に立っている。
(なんでずっといるのかな。迎えのクルマでも待っているのかしら)
それ以上は気に留めることもなく、Sさんは仕事を進めた。
それからさらに1時間ほどが経ち、Sさんがもう一度窓外に目をやると、ふたりはまだ、雨の中にいるではないか。
さすがにおかしく思えてきたSさんは、隣の席にいる同僚に声をかけた。
「ねえ、お向かいの家の前にいる、あの喪服の女の人たち、さっきからずっとあそこにいるんだけど、なんなのかなあ」
すると、Sさんの同僚は、笑いながらこう言った。
「さっきからって‥‥‥、人なんていませんよ」
驚いて、窓の外を見たSさん。
喪服のふたりは降り続く雨の中、まだアジサイの横に立っていた。
そしてふたりは、ゆっくりとSさんの方を見上げた。
Sさんはその姿を確認するや否や、女たちから目をそらした。
それから、急いで席を立った。
洗面所へ行き、顔を洗ったSさん。
そして、深くため息をついて、こんなことを思った。
(あの人たち、もしかして明日もあそこに立っているのかなあ‥‥‥。やだなあ、せっかくのアジサイの花が、怖くて見られなくなっちゃうじゃない、もう‥‥‥)
入梅初日の雨は、しとしとと深夜まで降り続いた。
※過去記事に、加筆修正したものです。