とある小料理屋の女将、M子さんの小学生時代の回想である。

 

 M子さんの生まれ育った家は、山の麓にある田舎家だった。

 

 子どもの頃から、山や家の近くに出没する虫や動物には慣れていたが、ヘビだけは苦手で、道にヘビが這っていたりすると、彼女はそこから先に進むことが出来なかった。

 

 ある日、庭でアオダイショウを見かけたので両親に報告すると、彼女の父親は、そのアオダイショウは自分が子どもの頃からうちに棲み着いている家の守り神みたいなものなので、見かけても手を出したりしちゃダメだよ、と教えてくれた。

 

 もちろん、M子さんはヘビに手を出すどころではなく、ただ早くその姿を消してくれるのを、じっと耐えて眺め続けるしかなかった。

 

 母親はアオダイショウはネズミを捕って食べるので、ほら、うちにはネズミがいないでしょう、などと話していたが、アオダイショウがネズミを捕食している姿を想像しただけで、M子さんは恐怖で仕方なかった。

 

 確かに、たまに天井裏をネズミの走る音が聞こえたりすることがあったが、いきなりバタンという音と、断末魔のようなネズミの鳴き声が聞こえていたので、あれはヘビがネズミを捕って食べていたのか、と考えると、M子さんはまた怖くなってしまった。

 

 

 ある夜、M子さんが自分の部屋で布団に入って寝ていると、天井板がミシ、ミシという軋むような音を立てた。

 

 これはきっと、アオダイショウがネズミを探して天井裏を這い廻っているのだ、と思った。

 

 しばらく天井裏の不気味な物音は続いていたが、M子さんはその怖さを紛らわせるために、

 

「ヘビかな?」

 

 と、口にした。

 

 すると天井裏の方から、妙に甲高い声で、

 

「ヘビだよ」

 

 と、返事をしてきた。