GW後半。
「うどん」と書かれた赤提灯の出ているお店に入って、遅い昼食をとる。
店内に客はおらず、奥から大柄なご店主がのっそりと出てきた。
「冷やし棒々鶏風うどん」というものを頼んだが、腰のある冷たいうどんに蒸し鶏と野菜が乗って、豆板醤のたれがかかっている。
サラダ感覚で食べられ、暑い日などの食欲のない時にはありがたい。
ここのお店には、たくさんの日本酒が置いてあるので、目の前の棚にあった獺祭を冷やで注文する。
うどんがメインのお店だが、カレーや丼物、定食などもあるようだ。
話を聞くと、ご店主は二代目だそうで、そういえば昔一度来たときには、老夫婦がやっていたことを思い出した。
その当時のことを少し話したら、ご店主は興味を持ったのか、自分の前の椅子に腰掛けて、
「俺、両親がここをやっていたとき、店の方は興味がなくって、東京から離れていたんです。よければ、もっと話を聞かせてくれませんか」
と言ってきた。
「親父も亡くなり、お袋も亡くなって、兄弟もいなかったので、店を継ぐことにしたんです。だから、この店の記憶があんまりないんです。たまに、親の代からの常連さんがお見えになって、話し込むことはありますけどね」
もともとは定食屋だったが、ご店主が好きなうどんをメインに据えて、近所の常連さんも困らないように、定食をやることにしたそうである。
お酒はご店主が好きなので、自分の美味しいと思う酒を揃えた。
「いいお酒が置いてありますね」
と自分が言うと、
「ええ、俺は料理と酒が好きだったんで、店をやるのはちょうどよかったのかもしれません。でも、なんで両親が生きている間に、店を手伝ったりできなかったんだろうな、って今でも悔やむ時があるんですよ」
ご店主は、しんみりとした調子でそう話した。
「ご両親の影響だったんではないですか。料理が好きとか」
自分がそう言うと、ご店主は黙って小さく頷いた。
自分はしばらくして、また今度伺います、と言って退店した。
それにしてもあのご店主は、先代のお父さんと話し方含めて、外見まで瓜ふたつだったな、と不思議な気持ちになりながら、帰路についた。