最近見た夢の話である。
自分は太鼓橋の上から、池を見下ろしている。
すると、緑色に濁った池の底から、能面の小面がゆっくりと浮かんできた。
注視していると、能面に短い4本の足が生え、能面はその水かきのある足で池を泳ぎ始めた。
どうやらそれは、甲羅が能面になっている亀で、しばらくすると能面を甲羅に被った亀は、遠くに泳いで行ってしまった。
手を叩いて呼び戻そうとしたが、亀はそのまま水中に消えていった。
消えた方向を眺めていたら、太鼓橋から池にいる鯉にパンくずを与えていた老人が、こちらに話しかけてきた。
あの亀の甲羅が、なぜ能面になっているのかということを教えよう。
昔、鬼神に取り憑かれた能面師がいて、その男が彫った能面を被ると、面が顔に張り付いて取れなくなってしまうという、恐ろしい“肉面”を作っていたんだ。
しかし、能面師は自らの所業に畏怖の念を抱き始め、自作の能面を全て池に投げ込んだ。
すると、たまたまそこにいた亀の甲羅に、その肉面がぴったりと被さった。
そして、肉面は亀の甲羅に張り付いてしまい、能面と亀の甲羅がそのまま一体化してしまったんだ……。
老人は、このような話を聞かせてくれた。
自分は能面の亀を呼び戻そうと、老人からもらったパンくずを池に放り投げてみたが、集まってくるのは普通の亀か鯉だけだった。