ずっとシャッターが降りた、ジャズダンスの看板がかかった建物。
看板はかなり色あせ、屋上にはカラスが営巣している。
早朝からやっているカラオケ店。
ここに出入りしている人はおろか、響いてくる歌声もまるで聞いたことがない。
シャッター通り商店街は、こうして無音に支配される。
その一角に、とある衣料品店があり、うんと安い衣料品を売っている。
しかし、そこで買い物をしている人の姿は見たことがない。
上半身だけのマネキンは、この数年間同じ衣装のまま、曇ったショーウインドウに立っている。
ここの店主は接客が好きだ。
店の中から、商店街を歩いている老人に声をかける。
店主の人懐こい笑顔を見て、老人はそのまま店内に入って、すすめられるがまま折りたたみ椅子に座る。
そして、主人の手渡す缶ビールを飲みながら、世間話を始める。
老人は店主と楽しそうに話をしているが、どうも商品を買って行くような気配などはない。
そして店主も、それを期待していない。
そんなふうに感じられる。
ただ、この商店街ではそんな不思議な風が吹いている、ようだ。