目覚めてから、二度寝した数分の間に見た夢である。

 

 夢の中では、自分は時計を製造している工場の労働者だった。

 

 流れ作業で、大きな歯車や小さい歯車などを、時計の中に組み込んで行く。

 

 日が落ちると、工場のベルが鳴って、作業は終了する。

 

 仕事が終わると、仕事仲間と工場のトラックに乗り、近所のバーに行くことにした。

 

 みんながトラックの荷台から降りて、バーの中に入ろうとすると、お店の前に金髪の女がいて、仲間のうちのひとりの影を、いきなりハイヒールの踵で思い切り踏みつけようとした。

 

 ハイヒールの踵は分厚く、肉を叩くミートハンマーのようになっている。

 

 その瞬間、自分はその仲間の影をカーペットのように引っ張っぱり、踏みつけられないように助けてやる。

 

 女は悔しそうな表情で、こちらを睨みつけた。

 

 そのままバーの中に入って、仲間と会話をする。

 

「さっきの、危なかったな」

 と仲間の男。

 

「ああ、あのヒールで影を踏まれたらひとたまりもなかったよ」

 と別の仲間。

 

「踏まれたら、呪いがかかってしまって、動けなくなってしまうもんな」

 

 年長の仲間が口にした。

 

 自分は、とっさの判断で影を引っ張ってやってよかった、と思う。

 

 そして、バーにいたお客と仲間達全員で、ギターを弾いて祝福の歌を合唱する。

 

 そんなところで、目が覚めた。

 

 影踏みは遊戯として昔からあり、月明かりの夜などに行われることがあった。

 

 鬼役を決めて、その鬼に影を踏まれた者は次の鬼となる。

 

 影を踏まれないために、走りながら影を逃がしたり、また建物の影や木陰などに入って、影を消してじっと潜むことがあった。

 

 自分は一度だけ、影踏みをしたことがある。

 

 月明かりの夜だったかどうかは、記憶が定かではないが、どこかの知らないオカッパの女の子に「かーげふんだ!」と後ろからいきなり叫ばれて、鬼にされてしまったその光景だけは覚えている。

 

 ずっと昔のことであった。

 

 

 

 ※過去記事に、加筆修正したものです。