馴染みのそば屋さんにて。

 

 スマホをいじりながら、お店の奥さんに話しかけている女性がいた。

 

「ねえ奥さん、この間さあ、道で会ったとき、すごく疲れた顔してたわよ」

 

「えっ、そう‥‥‥」

 

 奥さんは固まって、俯き加減で返事をした。

 

 ここのお店は、ご主人が厨房でそばを作って、奥さんが配膳をしている。

 

 お店ができた頃は若夫婦だったが、今はそこそこの年齢になっている。が、まだまだ若いと思う。

 

 その女性はたたみかけるように、

 

「今日もなんか疲れてるなって感じ。あたしの友達もこの店にくるんだけど、その人もやっぱり“奥さん、疲れた顔してたよ”って、言ってたわよ」

 

 スマホの画面を見ながら、そんなことを言う。

 

「そう‥‥‥」

 

 奥さんは、悲しそうな表情をした。

 

(おいおい、あまり追い詰めてあげるなよ)

 

 そう思いながら、自分はその会話を聞いていた。

 

 しばらくして、奥さんがこちらにそばを持ってきてくれた。

 

「ありがとう、今日もお元気そうで何よりです」

 

 そんなことを言ってみた。

 

 すると、奥さんは笑顔になって、

 

「ありがとうございます。ここしばらく雨が続いてるんで、ちょっと調子悪くて」

 

 と、そこからいつもするように、顔をしかめて話した。

 

 だいたい、ここの奥さんはお店を始めた頃から、気だるい雰囲気のある人で、それを疲れている、と思ってしまう人がいるのである。

 

 人のキャラクターがわかっとらんなー、と思う。

 

 それに、他人を心配したり励ますのはいいが、ネガティブな言い方はやめた方がいいであろう。

 

 スマホの女性を見たら、何となくその人の方が疲れて見えた。


 そばはいつも通り美味しかったので、安心する。