朝方、風の音で目が覚める。

 

 春の嵐のような強い風だ。

 

 しばらく横になって、その音を聴きながらウトウトとする。

 

 おそらく、そんなほんの一瞬に見た夢だったのだろう。

 

 薄暗い、谷底のような場所。

 

 目の前に、小川が流れている。

 

 その前で、自分は4人の男と一緒に立ちすくんでいる。

 

 その小川には獰猛な人喰いワニが潜んでいて、そこを渡ろうとする人を襲っては餌食にしているのだ。

 

 男たちは、その人喰いワニを恐れて、小川を渡れないでいるようだ。

 

 ひとりの大男が、ひょいと小川を渡りそうになる。

 

 すると、その横にいた男が突然、大男の髪の毛をつかみ、後ろに引き倒して何度も殴りつけた。

 

「馬鹿者! この小川には人喰いワニが生息しているのが、わからないのか!」

 

 大男を殴りつけながら、男は激昂している。

 

 やがて、殴られ続けた大男は意識を失ってしまう。

 

 残りのふたりは、大男を殴りつけた男のことを恐れて、小川を渡りたいのにその手前で立ちすくんでいる。

 

 しかし、片方の男が隙を見て小川を越えそうになるが、やはり怒っている男に後ろから捕らえられて、引きずり倒された。

 

「この馬鹿が! この川には人喰いワニが生息しているんだって言っているだろう!」

 

 男はやはり怒鳴りながら、倒れている男を何度も殴りつけた。

 

 殴られている男は、血まみれになって動かなくなってしまった。

 

 自分はその情景をぼうっと眺めながら、こう考えている。

 

(これでは人喰いワニよりも、この注意喚起している男の方が恐ろしいな)

 

 そこで目が覚めたのだが、夢の中で人喰いワニにはお目にかかれなかった。