以前、Netflixで配信され、一部で話題となっていた『アナイアレイション–−全滅領域–−』(2018年)がひっそりと DVD化されていた。
監督は、SFスリラー『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド。
主演は、『レオン』や『ブラック・スワン』の演技で評価の高いナタリー・ポートマン。
共演には、タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』で怪演を見せた、実力派女優のジェニファー・ジェイソン・リーなど。
映画は、主人公レナ(ナタリー・ポートマン)の尋問シーンから始まる。
検査衣を着たレナが椅子に座り、その前に防護服の男(ベネディクト・ウォン)が仁王立ちして、レナに質問している。
ここで、どうやらレナはなんらかの調査でとある場所に行き、その時に数名の仲間を失った、そして彼女自身の記憶も曖昧なものとなっている、などということがわかる。
そして、レナはその場所について、信じられないようなことを淡々と語り始める‥‥‥。
それは“シマー(光)”と呼ばれる虹色の光に満ちた、一帯を侵食し始めた謎の領域「エリアX」の話であった。
レナがなぜ、その“シマー”の調査に加わることになったのか、などは映画を観てもらった方がいいと思うので省略するが、その“シマー”の調査隊は女性のみで編成され、それぞれがいわく付きのメンバーであった。
隊長である心理学者のヴェントレス(ジェニファー・ジェイソン・リー)は、“シマー”の謎解明に命をかけており、メンバーの中でもとりわけ本心のわからない人物。
“シマー”の中に5人のメンバーが入ってゆくシーンは、何かこれから陰惨で禍々しいことが起こる、という雰囲気に満ち満ちており、オーロラ状のものが蠢いている美しい空間が、とてつもなく恐ろしい場所のように思えてくる。
“シマー”の内部では、凄惨な事態が次々とメンバーを襲い、生き残ったレナとヴェントレスは“シマー”の出口があるはずの灯台を目指して進む。
「灯台」のシーンはSF作家、J・G・バラードの小説『結晶世界』を映像化したようなビジュアルで描かれ、さらにその灯台の中には、まるで悪夢に現れるような異様なものが存在していた。
ジェフ・ヴァンダミアの小説「サザーン・リーチ」シリーズの第1作目『全滅領域(サザーン・リーチ1)』(早川書房・刊)がこの映画の原作となっているのだが、映画は原作とは違った印象のものになっている。
原題の「ANNIHILATION 」とは、「全滅」「絶滅」という意味の他に、物理学の用語では「対消滅(ついしょうめつ)」を表す。
「対消滅」とは、粒子と反粒子が衝突して、そのエネルギーが別の粒子に変換する現象をいうのだが、この映画ではその「変換」が不気味なメッセージとなって使われている。
ゆっくりと静かに、日常を侵食してゆく“シマー”という異界は、人類に何をもたらすのか。それは破滅なのか、それとも救済なのか。
・映画『アナイアレイション–−全滅領域–−』サウンドトラックより