『FUNGI――菌類小説選集 第Ⅰコロニー』から1年、待望の第2弾『FUNGIーー菌類小説選集 第Ⅱコロニー』(オリン・グレイ&シルヴィア・モレーノ=ガルシア・編 野村芳夫・翻訳 Pヴァイン・刊)が刊行された。
“FUNGI”とは菌類や菌類界の意味で、粘菌や酵母菌類、キノコ類、広義ではバクテリヤ類の事をいう。
なぜ、そんな菌類小説のアンソロジーが生まれたのか。
それはこの選集の編者たちが、かつて観て感銘を受けたという、日本製怪奇映画『マタンゴ』(1963年)に由来しているのだ。
無人島に漂着した7人の若い男女が激しい飢餓の中、幻覚が生じる禁断のキノコを食べたがゆえに、不気味なキノコ人間と化してしまって‥‥‥、という奇怪で幻想的な映画であるが、その独特な世界観や映像美は、今でも多くのファンの語りぐさとなっている。
映画『オーシャンズ11』などで知られるステーブン・ソダーバーグ監督は、その世界に惚れ込み『マタンゴ』のリメイクを企画した事もあったという。
そして、その『マタンゴ』には原作があった。
それは、ウィリアム・H・ホジソンというイギリスの小説家が書いた『夜の声』という怪奇短編である。
ホジソンの書いた海洋小説や怪奇小説は、アメリカの怪奇小説家・H・P・ラヴクラフトをはじめ、近年のSF・ホラー作家に影響を与えた。
本書『FUNGI』にはそのようなルーツがあり、奇怪な世界観に裏打ちされた『マタンゴ』の持つ強烈なトラウマ世界を核として構想されたのが、『FUNGI』“第Ⅰコロニー”と“第Ⅱコロニー”の2冊(原著は1冊)なのである。
掲載作品は当然ながら、全てがキノコ幻想とキノコ愛に満ちた作品ばかり。
まさにマニアック極まりない奇想アンソロジーが、この日本でも形になったのだ。
この企画を通した人たちや、こういった本を熱心に紹介する翻訳家が出版界にいるのは、心強い限りである。
<収録作品>
幽霊屋敷へと忍び込んだ超自然現象専門探偵の物語
Ⅰ 青色のへきれき (イアン・ロジャーズ)
男と女、愛の不均衡、菌類が知らせるその真実
Ⅱ 死者たちの夢見るところ (A・C・ワイズ)
とある村に起きた異変を描く歴史ものファンタジー
Ⅲ 黒花の微塵 (ダニエル・ミルズ)
人類にとって本当の危機とは何かを問うスチーム・パンク
Ⅳ ど真ん中の怪物 (フリオ・トロ・サン・マーティン)
エコロジー的観点から描かれた近未来的日常風景
Ⅴ オイスターのなかの真珠と温室のオイスター (リサ・M・ブラッドリー)
互いに住みやすい環境を求める人と菌類との往復書簡
Ⅵ 菌真者への手紙 (ポレンス・ブレーク)
妙な臭いの丸太を菜園に埋めるよう促す母、はたしてその真意は?
Ⅶ すべての真ん中を貫く孔 (ニック・ママタス)
かつて父と暮らした家の壁のカビが、少女の心象風景を侵食する
Ⅷ 再びの帰宅 (サイモン・ストランザス)
巨大キノコとの闘いに挑むヒロイック・ファンタジー
Ⅸ やつらはまずブタを迎えに来る (チャドウィック・ギンサー)
知らないはずのことを知っている――菌類が紡ぐ記憶の連鎖
Ⅹ ガンマ (レアード・バロン)
彷徨する胞子を歌ったスペキュレイティヴ・ポエム
Ⅺ 冬虫夏草ゾンビ (アン・K・シュウェーダー)
飛行機恐怖症の小説家の顛末を描く一大菌類賛歌
Ⅻ われらが物語は永遠に (ポール・トレンブリー)