未経験者歓迎。

着物が着られるようになる。

礼儀作法も身に付く。


そんな文句に私は惹かれて選んだのだった。


まさかほんとに高級なお店だなんて思ってもいなかった。

一流の料理人がいる。と書かれてあっても、

まぁどこでもそれくらいのこというんじゃない? なんて思っていたから。


面接には女将さんが応じた。その時は着物ではなかったが、

身長も高めで体つきも決して華奢ではなく、どちらかというとがっちりとした感じで

ただ者ではない、ことはすぐに分かった。


これだけ気品があり迫力のある女性を見たことがなかった。


ほぼ初バイトな私にとって、こんな人と話すなんて機会に見舞われたことにも驚いた。

面接はこちらに質問を浴びせるなんてものではなく、説明がほとんどで

女将さんは話し続けた。

(今思えば、この時、質問攻めなんかされてたら、恐くてしょうがなかっただろう。)


会社の重役さんや会長さんレベルのような方々が来られるけど…大丈夫?

その反応がきっと面接で一番聞きたかったにちがいない。


そんなつもりじゃなかった。なんて態度を出せるわけもなく。

私はこの状況を受け止めることにした。

成長できそう。なんてつぶやいてみたりして。少し強気を演じた。(ほんとはちょーびびりのくせに)






その頃、蒼井優がNHKの連続ドラマで「おせん」を演じていた。

見てはなかったけど、私はそのドラマの主人公になったような気分で初日を迎えた。

調理場は男ばかり、皆真剣な顔をして一息置く暇なんて感じさせず、動いていた。

そんな慌ただしい調理場に向かって、あいさつをしなければいけなかった。

聞いてくれるような体制でない相手に、声をかけることは

この上なく恐かった。

勇気が必要だった。

緊張しいな私には最初の洗礼かとも、その時は思った。

旦那さん、と言われる店の大将にもあいさつを、と言われ、

少し考えて緊張しながらも

今日からお世話になります○○です。よろしくお願いします。

と言うと、

ほんの少し、よい違和感を覚えたような顔つきをわずかにして

どこの大学?と返した。

神戸・・

○○大学です。

一瞬のにわかに嬉しそうな表情がすぐに消えた。

神戸大学かと期待したようだった。

今年のお正月のこと。


着物道具が安売りをしているということで、

新年早々、初売りムードなショッピングセンターの

一角にある、とある着物屋さんへ


祖母、母、私の女3代そろって向かいました。


人気の少ない店内で

余分なものを買わないように

そそくさと、目当てのものだけを品定めしていく2人。


私は特に、意見を求められることもないようなので

店のもの眺めていく。


着物屋さんというのは

 つきあい

が特にものをいう、客商売だ。

破格のセールも

新たな顧客を獲得するため。


店員さんをそれとなくかわしていると、

着物をきた女将さんが

知らぬ間に現れた。


声のトーン、テンション、表情


以前いたバイト先の、女将さんと重なるものを感じた。


私は特に用があるわけではないので

相づちを入れるくらいだけど、

女将さんはペースを乱すことなく、話す、話す、話す・・・


しまいにゃ、私に


成人式の写真を 

ここに飾りたいから持ってきて   なんて言い出して (笑)


いやいや、

ここで用意したわけでもないのに、

ましてや去年でもないのに、

もう来る気すらないのに、


誰がわざわざ。

応じるわけがないじゃないですか。


よくそんなことを言ってのけるなと。


そんな上品な図々しさも、私の知っている女将さんとかぶる。


ふと疑問が。

私は商売相手じゃないでしょ?

別にねだったりするようなキャラでもないし。

なんでずっと私女将さんの話聞いてるんだろう。

それも商品の話とかでもなく、息子やら娘やらの話を。

なーぜー?



でもやっぱり、最後にはしっかりと

祖母を相手に

私の訪問着をあつらえないかと勧めておりました。