よくトレーニングした選手は、手先、腕、肩の筋緊張を自由に調整することができるという。その背景には中枢神経系の促通機構と抑制機構とが互いに密接な協調作用を営んでいるというメカニズムがある。

(中略)

そこで仮説として、静の準備姿勢から素早い動きの反応動作に移る際は、まずは運動肢と非運動肢に上位中枢から抑制性のインパルスが送られる。続いて運動肢のみに上位中枢から促通性のインパルスが運動ニューロンに送られて同期性放電となる。

さらに、刺激の合図からPMSPが出現するまでの最小値は、上肢の場合に約40msであって、意識では起こらないほどに短い時間である。したがって、この随意動作に先行する抑制現象は、反射機構の関与する抑制現象と考えられ、さらには、大脳皮質運動領、小脳、脳幹の抑制領域がかかわる脳脊椎全体の同時抑制を示唆するものである。つまり「素早い動きは抑制から始まる」となる。

筋力発揮の脳・神経科学 6章 89 
矢部京之助