撮影日   2023.10.23(特記以外)

      

撮影場所  各写真に記載

 

前回の続きで先日阿蘇・日田旅行をした際に熊本で撮影した

市電の写真を紹介します。

今回は熊本市電が誇る100%超低床車(以下 超低床車)各

形式と、今に残る貴重な西鉄福岡市内線の生き残り5000形を

過去に撮影した写真も含め紹介します。

 

(一枚目)

通町筋電停で撮影した9700形9705号です。

B系統 健軍町行きで不動産会社のラッピングです。

3次車で最終導入編成です。

 

今回初紹介の9700形は、日本初の超低床車として記念すべき

存在です。1997年に最初の車両が製造され、2001年までに

5本が製造されました。

日本初の冷房市電やVVVF制御車の導入といった先進的な取組を

続けた熊本市電が、欧米諸国で導入されていた超低床車に目を

付け、ドイツのメーカーの「ブレーメン形」を導入する事とし、

AEG社(現 アドトランツ)の機器と新潟鐵工所(現 新潟トラン

シス)製の車体を組み合わせて導入しました。

制限の多い日本向けの仕様となっており、2台車2車体連接式で

全長は18550mmとなりました。車軸を廃して左右独立の

車輪とした台車で、それにより台車部の低床化を実現して

います。制御装置や抵抗器はA車(パンタ付き車)、補助電源は

B車(パンタ無し車)の屋根上に搭載されました。

 

こうして実現した日本初の超低床車は話題となり、先進的な

熊本市電のイメージが一層強まりました。1998年にはローレル

賞を受賞しています。そしてその後、1999年には広島電鉄が

ドイツ・シーメンス製超低床車5000形を5車体の長いボディを

連ねて大量導入し、以後超低床車の国産化の研究及び各地への

導入が進みました。熊本市電でも2008年には後継の0800形が

登場し、今後も超低床車の導入が検討されています。

日本の路面電車界に大きな衝撃を与えた9700形の功績は

計り知れないと思います。

(二枚目)

こちらはA車の側面です。

各車車端部に1か所両開きプラグドアを設置し、窓は黒サッシで

固定窓、上部が中折れ式です。

運転席側のドアが車椅子対応で、その向かいのロングシートは

折り畳み式で車椅子対応となっています。座席はタイヤハウス

部は1人掛けクロス、他はロングシートを組み合わせており

進行方向反対側の座席も存在します。

ワンマン対応ですが車掌乗務です。

(三枚目)

シングルアームパンタ搭載のA車の前面です。

大きな1枚窓となっており、前面は限界に合わせ絞られているのが

ホームとの隙間で分かります。

 

足回りについては100kwモーター台車を各台車に1基搭載し、

座席床下にモーターを装荷し、車体装荷式の直角カルダン駆動で

低床化を実現しています。市電初のIGBT-VVVF制御で、回生・

発電ブレーキ併用の電気ブレーキと、減速時向けの油圧式

ディスクブレーキを常用しています。又市電初のワンハンドル

マスコンを採用しました。

(四枚目)

続いて同じ3次車の9704編成です(2019.1.2 熊本駅前)。

A系統 健軍町行きで撮影時は「パト電」ラッピングでした。

この3次車は2次車と同じく幕式方向幕、白一色の塗色で

登場しましたが、内装については「水戸岡デザイン」が

全面的に採用されてグレー系の内装となりました。

制御装置やクーラーは国産化されました。

(五枚目)

・9700形は3次にわたっての導入でしたが、それぞれのグループで

「車生」が大きく異なっています。

まずは中々巡り合わない記念すべき1次車、9701編成です。

(2021.7.25)

 

この編成は市電初のLED表示器を搭載し、白の車体に屋根と車体裾に

青いアクセントを入れたデザインでした。LED表示器は増備車では

幕式に戻りましたが、0800形で復活しました。

現在は後述する様に市電初のフルカラーLEDとなり、「A系統

健軍町」と大変見やすくなりました。 

(六枚目)

大ベテランの5014編成を傍目に上熊本駅前を出発する9701

編成です(2022.3.2)。

この編成は長く休車状態で上熊本車庫に留置されていましたが、

2019年にリニューアルされ復活しました。行先表示器の更新の

他、機器類の国産化を行っています。特殊車故大分時間がかかった

様で、これが後述する2次車の運命を決定づけたのかも知れません。

改修当初は白地に車体裾が青色のデザインでしたが、撮影時は

アジア・太平洋水サミットデザインのラッピングでした。

(七枚目)

フルカラーLED改造後もドア脇のサボも併用されています。

上述した様に9700形の屋根上は各種機器が搭載されていますが、

リニューアル時に9701編成は屋根上の機器類が交換・増設されて

おり、一層賑やかな屋根になりました。

写真で色が濃ゆい機器は新品の機器類の様です。

(八枚目)

一方、運命が分かれたのが1999年増備の2次車2本です。

1次車と比べ行先表示器や塗色の変更、タイヤハウス上座席の

幅が広くなり「水戸岡デザイン」座席の採用といった点が

異なっています。

残念ながらこの2本は近年長期留置中で、上熊本車庫に留置が

続いています。写真の9702編成は窓にガムテープが貼られて

います。

この写真(2019.4.20)の時点では上熊本車庫脇の側線に2本共

留置されており、一時期は9701編成も停まっていました。

(九枚目)

2022.3.2の時点では同じ上熊本車庫でも駅舎側の留置線に

2本共移動していました。部品取り車扱いでしょうか。

残念ながら復帰は見込めない様で、雑誌などでも公に廃車予定と

されています。

広電の5000形も稼働車は3分の1程度に減っており、初物で

特殊仕様且つ輸入部品の多さが災いしたのでしょう。

残る編成については「COCORO」風デザインへの変更予定も有る

そうで、長く頑張って欲しいです。

(十枚目)

続いて今回撮影の写真に戻り、熊本駅前撮影の0800形

0802編成です。

この編成は以下の記事で紹介しています(2022.4.15)。

熊本市交通局 0800型 | 303-101のブログ (ameblo.jp)

 

2008年に2本が導入された新形式で、9700形の後継ですが

新潟鐵工所の後身・新潟トランシスが各地に納入している

「インチェントロ」スタイルとなりました。ドイツ風から

フランス風になった訳です。

尚増備の0803編成は「水戸岡デザイン」となり茶色系塗色で

「COCORO」の愛称が有ります。

(十一枚目)

近代的な上屋付きの電停に緑化軌道が先進的なトラムの姿に

良く似合います。

角ばった9700形に比べ丸っこいデザインです。

 

尚、写真左手の電停ホームのベンチは大変長くて途中に切れ目が

無いので、ここを跨いで電車への移動が難しく地味に不便です。

(十二枚目)

この編成は「チャギントン」ラッピングとなりました。

上記ラッピング車は岡電が有名ですが、こちらもラッピングだけ

ですが賑やかな外観になりました。

流石に岡電の様に同じ「インチェントロ」ベースの車両を基に

「チャギントン」スタイルで新製する、という事はしてません。

(十三枚目)

そして今回嬉しい事に、1本だけ在籍する連接車の5000形・

5014編成がやって来ました。

通町筋電停撮影のB系統 健軍町行きです。

 

5000形については以下の記事で紹介しています(2019.11.24)。

熊本市交通局5000型 外観(1) | 303-101のブログ (ameblo.jp)

1976年と1978年に西鉄福岡市内線の1000形2車体連接車を

4本導入した物で、形式は導入が昭和50年代だった為で車番末尾は

福岡時代のままです。

移籍後は冷房化や塗色変更を受け活躍していましたが、ラッシュ

時のみの運用となり5010編成が9700形2次車導入で廃車、

2009年に0800形導入で5011と5015編成も廃車されました。

5014編成も休車となりましたが、輸送力増強の為2017年に

西鉄筑紫工場で修理後復活しました。その際外板修理やモケット

更新、機器類の更新が行われました。

その後も朝夕ラッシュ時中心に活躍しています。

 

尚この時期の市電は車両が足らなかったのか、9701編成も上述の

様に復活させています。車齢が40年違う車両を同時期に復活させた

のだから凄いですが、選に漏れた9702・9703編成の悲哀が…。

(十四枚目)

こちらはパンタ付きのA車側面です。

ノーシルノーヘッダーで張り上げ屋根の滑らかな車体です。

折戸にバス窓は西鉄の路面電車の特徴で、改造で同仕様に

変更した例も有りました。窓サッシは車体色に塗られています。

熊本市電らしく側面行先表示器に加えサボも併用しています。

(十五枚目)

A車の前面です。

西鉄時代の姿を残しており、前面中央はHゴム支持の1枚窓で

両脇の窓は下降窓です。旧型ボギー車と違いごちゃごちゃして

いません。前面方向幕は小型です。

 

西鉄軌道線の1000系列連接車は福岡市内線と北九州線にそれぞれ

在籍しましたが、車体形状は似ていても細部が違い、特に足回りは

北九州線が全車吊り掛け駆動に対し福岡市内線はカルダン駆動車と

吊り掛け駆動車が混在し、モーター出力も違うなど差違がかなり

有りました。

福岡市内向けは1000・1100・1200・1300各形式がいましたが、

熊本に来たのは川崎車輛製でカルダン駆動の1000形由来で、

中でも全鋼製の1957年製が譲渡されました。

1000形の譲渡車は熊本だけでしたが、1100以降の各形式は一部が

筑豊電鉄や広島電鉄へ移籍しています。

(十六枚目)

この車両、どうもLED照明に改造された様です。

熊本市交通局経営計画(2021~2028)によると1200形や

1350形の行先表示器・照明のLED改造が予定されている様で

今回目撃した復刻カラーの1205号もLED照明になっていました。

他の車両も改造予定なのかも知れません。9701編成の照明が

気になる所です。もっとも座席変更・フルカラーLED改造が

行われた8502号は蛍光灯のままでしたが。

他に防犯カメラ設置も行われています。

(十七枚目)

本編成は2002年に西鉄時代のマルーン系の塗色に復元されて

います。かつて西鉄で昭和50年代頃まで鉄道・軌道各線で

採用されていたもので、大牟田線の特急用車(1000・1300・

2000系)以外この塗色の時代も有りました。

(十八枚目)

台車は特徴的な外観の軸梁式台車、OK-10C(連接部はOK-

10D)です。このOK台車は戦後川崎車両が開発した新型台車の

OK台車の一員で、軸箱のペデスタルを廃した軸梁式で独特な

外観なのが特徴です。

京急では初代1000形等で大量採用され、他に山陽電鉄等でも

導入されました。軌道用では西鉄の1000系列(福岡・北九州線)

でも導入されました。この頃の西鉄は様々な台車を導入しており、

軌道線用1000系列も多様な台車が存在しました。

山陽3000系は廃車の継続や台車の変更で淘汰された可能性も

有り、現存はこの編成だけかも知れません。

 

モーターは38kw×4基、自動進段式の間接制御で駆動装置は

中空軸平行カルダン駆動です。

1950年代、所謂「PCC」車と呼ばれる高性能路面電車で

カルダン駆動が採用されましたが、使い勝手や保守の難渋、

そして路面電車の廃止でこの時期のカルダン駆動路面電車の

現存は他に阪堺501形だけです。

(十九枚目)

・西鉄の路面電車は菱枠式パンタグラフでしたが、熊本に

移籍した車両は後年全車熊本標準のZパンタに交換されました。

(二十枚目)

ここからは過去に撮影した5014編成の未公開写真です。

基本的にラッシュ時以外上熊本車庫で休んでいます(2019.4.20)。

クーラーはB車のみに1基搭載しています。

上記経営計画では1200・1350形のクーラー更新を計画している

との事ですが、本形式はどうなるのでしょうか。

(二十一枚目)

2021.7.25撮影の同車です。

側面方向幕は側窓上部の内側に設置されています。

西鉄時代は窓一杯のサイズでしたが、現在は写真の様に縮小

されています。

参考文献の写真では1999年の時点で5014編成は縮小されて

いますが、他編成では撤去された車両もいました。

(二十二・二十三枚目)

・走行中車内から撮影した、上熊本車庫留置中の5014編成です

(2022.3.2)。

リニューアル後はラッシュ時メインですが車体は綺麗に維持されて

います(市電の旧型車は手入れが…)。

屋根・窓・ドア・車体裾に丸みを帯びており、優美なデザインです。

奥にはもう営業する事の無い9700形が隠れており、40歳年上の

大先輩より先に引退してしまいます。

尚現在熊本市電ナビの運行情報では5014編成や「COCORO」の

運行情報が分かるので、探しやすくなったかも知れません。

 

これで先月撮影した熊本市電の写真の紹介は終わりです。

「早起きは三文の得」で、5014編成が見れたのは幸いでしたが

撮影出来なかった1205号が残念です。

 

尚、交通局経営計画では今後既存車の改修予定が有り、例えば

0802・9704・9705号は2025年以降制御装置やクーラー更新

予定です。

一方2024年以降、超低床式の他車体連接車(3車体か?)導入で

収容力増強と共に保有車両削減及び経年車の淘汰予定が示されて

います。

2024年以降10編成の導入と共に14編成分の廃車予定で、資料を

読むと1000形(1060・1080・1090形)10編成、8200形~

9200形の内2編成、9700形~0800形の内2編成の廃車が示されて

います。9700形2本は9702・9703編成で、2021年度廃車と

なっていますが、まだ車両は残っている様です。

1000番台車は全車廃車となるようですが、旧塗色復刻の1063も

対称なのでしょうか。8200形2両も制御装置更新は施工済み

ですが、上記資料の改修計画に無いので先行きが怪しいです。

いずれにせよ、今後数年で大きな変化が見込まれる状態です。

 

この後は熊本電鉄撮影に訪れました。

次回に続きます。

 

参考文献  鉄道ピクトリアル NO.688 2000.7

                  【特集】路面電車~LRT

 

参考HP  熊本市交通局経営計画(2021~2028) 

 

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