撮影日   2021.4.6

撮影場所 熊本市交通局幹線 辛島町電停

 

先日熊本を訪問した際、現在最古参の1060形1063号車を

遂に撮影出来たので、

今回紹介します。

 

(一枚目)

ベテランオーラの漂う1063号です。

まさか普通の平日に走っているとは思いませんでした。

A系統 田崎橋発健軍町行きです。

 

1060形は1951年に160形として3両が製造された半鋼製

低床式ボギー車です。

車体は前年の150形に準じ、車体長は12.8mで登場時は

3ドア(片開)でした。

当時の一般的なウインドシル・ヘッダーが窓の上下に設置

された仕様で窓は2段窓です。

前面窓は3枚窓で中央窓の幅は広くなっています。

屋根は張り上げ屋根ですが浅い独特なスタイルで、これは

熊本市電の旧型車の特徴の一つです。

足回りも当時の標準の直接制御に吊り掛け駆動で、モーター

は東洋電機SS-50(38kw)×2基です。台車も板バネ式の扶桑

金属工業製KS-40Jで、標準的なスペックでした。

 

尚製造は大阪は堺市に存在した廣瀬車両というメーカーです。

詳細は不明ですが敗戦後中小私鉄や路面電車を製造したメーカー

で、北陸鉄道モハ5000形(→3750形・保存車で現存)や荒尾

市電の唯一の新製車17号等が製造例でした。

熊本市電では1949年製の130形、1950年製の150形が同社の

製品でしたが、1952年頃倒産したそうで現役は今回紹介の

1063号だけとの事です。

尚その次に製造された170形(現長崎電軌600形)、180形(一部

のみ 現1080形)の製造メーカーは戦前から戦中にかけやはり

中小私鉄や路面電車向け車両を多く製造した木南車輛の後釜、

新木南車輛製でここも1954年に倒産した為現存は1081と601の

2両だけです。 

 

同局では初のボギー車、120型から3ドア車を導入していました

が、本形式が最後となり次の170形は前後折戸となり長さも

1.8m短くなって11.0mとなりました。しかし次の180形では

前中引戸になり長さも12.0mと少し長くなってそのスタイルが

後の標準となりました。

 

製造当初ポールだった集電装置は1953年にビューゲルに交換

されています。又その頃から後部扉は使われなくなったそうです。

1960年には蛍光灯化されました。

1969年には全車ワンマン化され、1060形となり後部扉の閉鎖

やZパンタ化が施工されました。

熊本市電は日本で初めて路面電車の冷房化に着手しましたが、

1060形はこの1063号車のみが1980年に集中式の冷房を

設置し、暖房も設置されました。

他の2両は対象とならず1988年迄に廃車されました。

この時点で非冷房車は無くなり、同時に本車が最古参となりました。

 

熊本市電では相次ぐ新車導入により本車や1080形は稼働機会

がかなり減りました。実際、私が熊本にいた2004年から2008年

の間は1063号の動くシーンを全く見ませんでした。

しかし2003年に映画の撮影に使われる事になり、塗色をクリーム

に紺帯の旧塗色に復元しました。その後車体改修が行われ、2012年

以降はリフレッシュ工事が施工されています。又ICカード対応工事

も行われています。

製造から70年が経ちましたが、まだまだ現役を続けそうです。

(二枚目)

・側面です。

 

窓はバス窓では無い2段窓です。これは1080形も同様ですが、

そちらは無塗装のアルミサッシなのに対しこちらは塗装されて

います。ひょっとしたら製造時の木製枠かも知れませんが

如何にも古めかしいスタイルです。

後部扉を埋めた部分だけHゴム固定で、上下に分かれてバス窓

風になっています。

あからさまに扉を埋めたと分かりますが、きちんとウインドシル

・ヘッダーが巻かれています。

このウインドシル・ヘッダーは前面窓と微妙なカーブを付けて

巻かれており、神戸市電の模倣らしいですが180形まで採用されて

います。188(→1090形)からはノーヘッダーになり廃止されました。

 

この部分の窓には「冷房車 熊本市電」とわざわざ書かれています。

他の車両には無いので、これも昔の熊本市電を髣髴とさせるアイテム

でしょうか。

(三枚目)

台車は上述の通りKS-40Jですが、1054号と振り替えて

いるそうです。如何にも古いスタイルの板バネ台車で、

軸受けも平軸受けです。

180形まで似た仕様の台車で新製されましたが、188形から

コイルバネでコロ軸受けの新型台車に移行した為現在市電

では本車と1080形だけです。

 

ドアの左脇下部に写っているのは製造銘板と思われます。

(四枚目)

・ドア付近の側面です。

鋼製ドアですが、恐らく製造時は木製ドアだったと思われます。

長崎電軌の旧型車が現在でも木製ドアなのとは対照的です。

 

屋根のZパンタはワンマン化後の施行で、ビューゲルだったら

もっと嬉しかったのですが。ドアの横には系統番号と経由地が

書かれたサボが有り、これも旧型車各系列及び8200・8500

(LED改造車除く)型で見られます。

ドアの右手には電照式の「入口」表示(英語・ハングル併記)と

危険物持ち込み禁止の表示が有ります。このアイテムも旧型車

標準ですが、後者をわざわざ車体に書くのは珍しいのでは

ないのでしょうか?過去に何かあったのか?

その横は局章でしょうか。これも旧型車のアイテムです。

(五枚目)

・反対側の前面です。

 

元は木枠だった筈ですが、現在は前面中央窓はHゴム固定となり

左右及び側面も上段がHゴム固定となっています。

その上には「ワンマンカー」の表示が有ります。他の旧型車は

「ワンマン」ですが本車だけ何故か違います。

バス協風の標識灯も旧型車の標準仕様で、他社では見かけません。

系統番号のサボが剥げかけているのが残念です。

 

塗色は一時期白に緑帯でしたが前述の様に旧塗色に復元されました。

やはりこちらの方が旧型車に似合いますが、出来れば前面窓周りも

復元して欲しいです。

熊本市電の旧型車はどれも前面窓がHゴム支持に改造されごちゃ

ごちゃした印象ですが、

製造時の写真を見ると大変シンプルで見栄えが良く感じます。

 

残念ながら乗車は叶わず、轟音を立てて走っていきました。

モダンなスタイルの超低床車や画期的だった軽快電車に紛れて

走る「古強者」はこれからも活躍しそうです。

 

以上です。

 

参考文献 鉄道ピクトリアル NO.688 2000.7 臨時増刊号 

     【特集】路面電車~LRT

 

参考HP ウイキペディア 関連ページ