貴族探偵にうつつを抜かしすぎた3ヶ月。
貴族探偵一色でした。
最終話でも結局、御前の正体も使用人の正体も明かされず。
山本は少年の御前と推理をしていたと衝撃の告白。
御前ロスなのに萌えが止まらず、
こっそり妄想してたものを倉庫へと…。
佐藤中途採用説にて、前職は何かと妄想していた5月頃の妄想…。
6月頃には、知識豊富、弁舌流暢なので結婚詐欺師を疑ったり。
色々迷走する意味の無い妄想の一端。
「薔薇苑」
「サトー、もう戻ってこないのか?」
「あぁ、契約は終了した」
今もまだ市街戦は続いていて、遠くからではあるが断続的に銃声が響いてくる。
「惜しいな、お前がいてくれたら生き延びる確率が高くなるんだが」
簡易ベッドに横になって銃の手入れをしながらそんな事を言ってくるこの男が、そんな弱気とは無縁だという事はこの2年で充分過ぎるほどわかっている。
「お前なら一人でも生き延びるだろう」
それに契約の切れた俺にはもう関係のない土地だ。
「次は敵味方で戦場で会うなんてのは、勘弁してほしいからな」
「…もう傭兵からは身を引く」
すでに電気も断たれた暗闇の中で、小さな電灯の光だけで荷物を纏める。
纏めるほどの荷物も大切な物も持ってなど無いが…。
「へぇ、お前ほどの腕ならどこでも高く雇ってくれるだろうに」
俺の言葉を意外に思ったのか、
銃の手入れをやめ身体を起こし身を乗り出してきた。
「…一度話していた例の人の処へ戻るのか?」
「覚えていたのか?」
「記憶力も良くないとこの仕事で生きていけない」
「お前の本当の名前は?サトーも偽名だろ?」
「どうだろうな…」
お前のマイクもそうだろう?と、
どちらともわからない緊張が、
空気の中に混じる…。
「はーーっ…」
マイクはバタリとまたベッドに横になった。
さすがに死線を渡ってきただけはあって察しが良いのか、それ以上深くは聞いてはこなかった。
…『御前』に繋がる事は知らない方が身のためだ。
それに…、
「…誰かわからないが、お前を個人で雇えるなんて幸せな奴だ。そいつの安全は保証された」
俺の本当の名前は『御前』だけのモノ。
屋敷住みの運転手として使えていた父。
その為、俺も幼い時から『御前』の運転手としての将来は約束されていたが、もっと確かな存在として御前に使えたいと、
ツテを頼って軍事訓練を受け、
山岳地帯、砂漠や市街地の戦場を渡り歩き…
漸く御前の元へ帰る時が来た。
シャポードナポレオン、グラハム・トーマスクリスチャン・ディオール、ガーデンパーティ、ブルーパフューム、サマードリーム……
硝煙と土埃、血と汗に汚れた世界からすれば、
この薔薇が咲き誇る御前の庭は夢の世界の様だ。
その夢の世界に、
戦場を渡り歩きながらも、
ただ記憶の中にだけ留めて、
私の心を癒していた
『御前』の姿。
それが、現実になる…。
「お帰り。佐藤」
「ただいま戻りました、御前」
臨時とはいえ一個部隊を率いた事も有る私が、
易々と膝を折る。
どれだけの、どれ程の薔薇が咲こうとも、
御前の比類無い気高さが私を撃ち抜く。
「フライングフィッシングの腕はみがいたか?」
御前は優雅に立ち上がり、
まるで何事も無かったかの様に、昨日の会話の続き事の様に、
「今から釣りに行こう」
…私を誘う。
今までの私の5年間の経験が夢で、今、目が覚めて漸く現実へと戻った様な感覚…。
「車を出せ、佐藤」
私は自分の在るべきところへ戻ってきたのだ。
「私は御前の運転手、いわば足にございます。御用が有ればどこへでも」