ホテルのロビーでクリハラさんを待っていた。
これから長野に帰るあの人を駅まで見送る為に。
ほんの数時間一緒にいただけなのに、
こんなに離れるのが寂しいなんて、
「僕はどうかしてるのかな?」
優しくて紳士で、古風なクリハラさん。
僕とは正反対のしっかりとした考えを持ってる人。
不意に抱きしめてくれた腕があたたかくて、
美味しそうに食べる姿が可愛くて、
僕に優しく微笑んでくれる目が、
僕の話に答えてくれる声が…。
こんな事は初めてで、どうしていいかわからない。
でびくろくんも答えてくれない。
胸が苦しくて、
息が出来ないみたいになる。
「はぁ……」
ため息を一つついて、一度目を閉じた。
ぐるぐる回るいろんな思いを閉じ込めて、
残りのクリハラさんとの時間を楽しくする為に。
ちゃんと笑顔で明るくいられるように。
「お待たせしてしまって、すみません」
「電車の時間は大丈夫ですか?」
鞄一つを持ったクリハラさんが、チェクアウトを済ませて戻ってきた。
「大丈夫です、駅に行きましょうか」
そしてそっと腰に手をあててエスコートしてくれる。僕は男なのに、そんな風に優しくあつわれてドキドキしてしまう。
「長野はどんなところですか?」
「お蕎麦は美味しいですか?」
少しでもクリハラさんの事を知りたくて、タクシーに乗ったら色々と質問がとまらなくなった。
「街を離れるとまわりは畑が続く長閑なところです。山々も雄大で、今は雪で白く美しい世界です」
「素敵ですね、東京は雪はあまりつもらないので見てみたいです」
「本当ですか?」
「くふふ、雪は好きです。舞い降りてくる雪が綺麗で、ずっと空を見てたりします」
「だから昨日も空を見ていたんですか?」
「…え?」
「寒そうで、ほっとけなくなる…」
「ご、ごめんなさい。お医者さんに心配かけてしまいましたね、気を付けます」
そう言って頭を下げた僕を見つめるクリハラさんの目が、一瞬悲しそうに見えたのは気のせいだったのかな?