先月、紹介先の外科医からこのような連絡を受けた。


当院からお願いしていた患者、東野強(仮名:72歳)について。



「進行胃癌にて3/31に胃亜全摘施行、腹膜播種あり、予後は6ヶ月と考えられます」

「抗がん剤はご本人のコンプライアンスの問題もあり、投与しない方針です。」

いつもお世話になっている近くの病院で胃がんの手術を終えたばかり。

平成28513日付けの簡潔な最終報告とともに一人の寿のオジサンが退院した。




ポーラのクリニックへの初診は平成2229日だから、かれこれもう6年目となる。


初診時の彼の住所は、横浜市中区日本大通り

変な住所であるが、路上生活の人がとりあえず医療につながるときの仮の住所。つまり横浜市中区役所の所在地。



路上生活者だった彼の当時の病名は、陳旧性肺結核、タバコによるCOPD,高血圧性心肥大による慢性心不全。

いずれも、絶対禁煙の疾患。





お話好きのオジサンで、声はデカイ。昔の仕事はボーイ、 バーテン、警備 等というからいわゆる肉体労働派ではない経歴だ。どっかの寮(ホームレス収容の民間施設)にはいっていたが追い出されてまたホームレスしてたらしい。結婚歴は一回35で離婚、 子供はいないことが初診でわかった。



寿に生きているこの年代の人たちに共通する特徴がひとつ。

「自由人」。




なかでも、団塊の最先端である東野さんの生き方は、高度経済成長のエリート路線と並走するかのような「自由人路線」をたどったものだった。


現在、寿に生きている高齢者は、

自分の感性で自分の判断で寿に入り、失敗を繰り返しながら路上生活者になり、生保受給年齢になって寿で高齢者として、生きている。


「それって自業自得じゃない」

よく一般社会のソトブキの人から耳にする言葉。


私も素直にそう思う。

そう思うが、自業自得だから、弱者となった今、誰からの援助も受けられないのか?

そうは思わない。

この国はそんなヒドイ国じゃ無いはずだし、基本的人権っつーのはそのために憲法で規定されているはず。





ポーラのクリニックやNPO「さなぎ達」の役割の一つは、このような高齢者のQUALITY OF DEATH を担保することである。



東野さん、自由すぎる性格が災いして、どの病院でも「どうか早めに退院してください。」と勧告を受ける。手術してもらった病院でも「一刻も早く」とおねだりされて退院となった。



しかし、術後、尿・便が間に合わないことが気になって山中に早朝TELがくる。

「先生、うんちが出そうででない」

だいたい朝の散歩中、二匹のゴールデンレトリバーを左手に引っ張りながら、右手で携帯対応する。

連日だと「こりゃタマラン!」(山中 修)と普段お世話になっているまた別の病院へ入院。





6/10朝、みまもりみとりチームを作成するまで数日間の一時入院をお願いしていたこの病院の院長から、「先生、お願いですから、この患者さん勘弁してください」と電話をもらった。やっぱりか・・・。



「勘弁して」の理由は、息苦しくなると入院先病棟から自身の携帯で救急車に電話してしまう、それと、携帯を病院で保管したら、「窃盗」だと警察に電話する、その2点であった。


いくら自由人でも、病院もたまんないわな・・・

と同感し、6/10に退院となり、タクシ-、その足で当院へ受診となった。



病院入院中の患者が携帯でQQ車呼ぶって、長いこと医者やってるけど聞いたことない。

みんな大笑いするが、本人はいたって必死なのである。


これから、東野さんのみとり活動がはじまるのである。



以下次号。