FAX内容:

CWさんに許可もらってドヤの居室で数年飼ってた豆柴、二回出産、最終が 2月に6匹産まれました。 親犬二頭はドヤ内継続同居の予定でしたが、別紙の様なもめ事から手放しせざるをえなくなりました。

豆柴のおかげで 禁煙+サンポができるようになりとても明るい人生になったいたので反動が強いです。 内科的に問題なく胃カメラも正常です。 おう吐 めまいの原因はペット・ロスです。 できたらペットショップイワシタ(本人から聴取した名前)に預けた親犬たちを引き取れるようにしてあげたい と個人的に思います。」


この内容を知ったCWが今度は驚愕!!

「イヌ飼ってるなんて、ありえません!! 生保でしかも簡易宿泊所で、ありえません!!」

「念のため確認しましたが、帳場さんも ありえません!!」

と、あり得ない3連発。


クリニック一同、院長も含めてまるまる全員、Iサンの錯話にかつがれていたのだ。

意図的にだましたのだろうか?

山中がイヌ好きだから共感を得ようとしたのだろうか?

それとも、完全にその世界で脳みそは生きていたのだろうか?

作りはなしではなく、錯話でいいのだろうか??


ここは、院長。

毅然として皆に指示を出さねばならない。

考えた。あげくに一番安易な方法。


「このままだまされていよう」

と思った。





翌週、Iさん元気になって今度はひとりで来院した。

明るい顔に戻っていた。


「これからは、ドヤの社長が責任もってオレにアパートの部屋さがしてくれるって」

「ペットショップイワシタから連れ戻してそこでまたイヌかえるようにするっていうから、

ケースワーカーと相談します。」

と、報告してくれた。


一同、「そりゃよかったね~」

と前に向き始めたIサンに安堵した。


それから一ヶ月の今日。

そろそろIさんの血圧薬や脂質低下薬、睡眠導入剤が切れるはずの本日、警察の刑事課から電話があった。

「病名は?」「通院頻度は?」「死因として思い当たることは?」

「使用薬剤は?」

等、やつぎばやに質問を受けた。

こんな質問は慣れっこになっているものの、気になってきいてみた。

「亡くなったの今日ですか?」

答えは「いえ、部屋から出る異臭でそうじの人が気づいたそうです」

が返事だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

孤独死を減らそう!!

そう思って12年前にこのクリニックを開いた。

ヘルパーや看護師が入れる患者さんは孤独死しなくなった。

が、Iさんのようなケースもまだ年に12名存在する。

「死因として思い当たる」ことはない。と警察へは返事した。

しかしながら、頭の中では長い長いストーリーが回ってた。

まだ、いまだにIさんの空想の中の豆柴たちが生きてるような、Iさんやっぱペット・ロスで死んじゃったんじゃ???

そんなストーリーが残ってる。

寿の人たちは、その生き方が強烈であるがゆえに、強烈なストーリーをのこしてゆく。

Iさん さよなら。

あっちで思う存分イヌの散歩してあげなよ。

あのまま だまされて 良かった よ。

実に 悪気のない ウソ って 世の中にあるもんだ。

合掌