………………
「公園で、おなかに子どもがいるってわかったとき」
遠くから自分の声が聞こえた。だれかほかの人の声みたいに聞こえた。
「おろそうって思ったの。岸田さんには頼れないってわかってたし、いろんなことが無理だって思った。母親になりたいなんて、思ったこともなかったしね。おろすことも、べつにこわくなかったんだよ」
うん、と小さく千草がうなずく。
………………
「病院に調べにいったときも、その場で手術の日取りを決めるつもりだった。だけどね、千草、おじいちゃんの先生がね、子どもが生まれるときは緑がさぞやきれいだろうって言ったの。そのとき、なんだろう、私の目の前が、ぱあっと明るくなって、景色が見えたんだ。海と、空と、雲と、光と、木と、花と、きれいなものぜんぶ入った、広くて大きい景色が見えた。それでも私ね、思ったんだよ。私にはこれをおなかにいるだれかにみせる義務があるって。海や木や光や、きれいなものをたくさん。私が見たことのあるものも、ないものも、きれいなものはぜんぶ」遠くから聞こえる声は、まるで自分自身をなぐさめるみたいに響いた。
「もし、そういうものぜんぶから私が目をそらすとし ても、でもすでにここにいるだれかには、手に入れさせてあげなきゃいけないって。だってここにいる人は、私ではないんだから」
………………
海は陽射しを受けて、海面をちかちかと輝かせている。茶化すみたいに、認めるみたいに、なぐさめるみたいに、許すみたいに、海面で光は躍っている。ー終り。
「公園で、おなかに子どもがいるってわかったとき」
遠くから自分の声が聞こえた。だれかほかの人の声みたいに聞こえた。
「おろそうって思ったの。岸田さんには頼れないってわかってたし、いろんなことが無理だって思った。母親になりたいなんて、思ったこともなかったしね。おろすことも、べつにこわくなかったんだよ」
うん、と小さく千草がうなずく。
………………
「病院に調べにいったときも、その場で手術の日取りを決めるつもりだった。だけどね、千草、おじいちゃんの先生がね、子どもが生まれるときは緑がさぞやきれいだろうって言ったの。そのとき、なんだろう、私の目の前が、ぱあっと明るくなって、景色が見えたんだ。海と、空と、雲と、光と、木と、花と、きれいなものぜんぶ入った、広くて大きい景色が見えた。それでも私ね、思ったんだよ。私にはこれをおなかにいるだれかにみせる義務があるって。海や木や光や、きれいなものをたくさん。私が見たことのあるものも、ないものも、きれいなものはぜんぶ」遠くから聞こえる声は、まるで自分自身をなぐさめるみたいに響いた。
「もし、そういうものぜんぶから私が目をそらすとし ても、でもすでにここにいるだれかには、手に入れさせてあげなきゃいけないって。だってここにいる人は、私ではないんだから」
………………
海は陽射しを受けて、海面をちかちかと輝かせている。茶化すみたいに、認めるみたいに、なぐさめるみたいに、許すみたいに、海面で光は躍っている。ー終り。