『とても長かった、と青豆は言う。
とても長かった、と天吾も思う。しかしそれと同時に二十年という歳月が、もはや実質を持たないものになっていることに彼は気づく。それはむしろ一瞬のうちに過ぎ去った歳月であり、だからこそ一瞬のうちに埋めることのできる歳月なのだ。
…
ずっとここにいて、このまま時間のことなんか忘れてしまいたい、と青豆は小さな声で言う。でも私たちにはやらなくてはならないことがあるの。
我々は移動する、と天吾は思う。
そう、私たちは移動する、と青豆は言う。それは早ければ早いほどいい。もうあまり時間は残されていないから。これからどんなところに行くか、まだ言葉にはできないけれど。
言葉にする必要はない、と天吾は思う。
…
私たちが離れることはない、と青豆は言う。…
急がなくては、と青豆は小声で囁く。…闇に包まれた深い森を手探りで抜けていく幼い子供たちのように、彼らの手は堅くひとつに握り合わされている。
「僕らはこれから猫の町を離れる」と天吾は初めて言葉を口にする。青豆はその生まれたばかりの新しい声を大事に受け入れる。
「猫の町?」
「深い孤独が昼を支配し、大きな猫たちが夜を支配する町のことだよ。美しい河が流れ、古い石の橋がかかっている。でもそこは僕らの留まるべき場所じゃない」
私たちはこの世界をそれぞれに違う言葉で呼んでいたのだ、と青豆は思う。私はそれを「1Q84」という名で呼び、彼はそれを「猫の町」という名で呼んだ。でも示されているのは同じひとつのものだ。青豆は彼の手をいっそう強く握る。
「そう、私たちはこれから猫の町を出ていく。二人で一緒に」と彼女は言う。「この町を出てしまえば、もう昼であれ夜であれ、私たちが離ればなれになることはない」
二人が急ぎ足で公園をあとにするときもまだ、大小の一対の月は緩慢な速度で流れる雲の背後に隠されている。月たちの目は覆われている。少年と少女は手を取りあって森を抜けていく。』
とても長かった、と天吾も思う。しかしそれと同時に二十年という歳月が、もはや実質を持たないものになっていることに彼は気づく。それはむしろ一瞬のうちに過ぎ去った歳月であり、だからこそ一瞬のうちに埋めることのできる歳月なのだ。
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ずっとここにいて、このまま時間のことなんか忘れてしまいたい、と青豆は小さな声で言う。でも私たちにはやらなくてはならないことがあるの。
我々は移動する、と天吾は思う。
そう、私たちは移動する、と青豆は言う。それは早ければ早いほどいい。もうあまり時間は残されていないから。これからどんなところに行くか、まだ言葉にはできないけれど。
言葉にする必要はない、と天吾は思う。
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私たちが離れることはない、と青豆は言う。…
急がなくては、と青豆は小声で囁く。…闇に包まれた深い森を手探りで抜けていく幼い子供たちのように、彼らの手は堅くひとつに握り合わされている。
「僕らはこれから猫の町を離れる」と天吾は初めて言葉を口にする。青豆はその生まれたばかりの新しい声を大事に受け入れる。
「猫の町?」
「深い孤独が昼を支配し、大きな猫たちが夜を支配する町のことだよ。美しい河が流れ、古い石の橋がかかっている。でもそこは僕らの留まるべき場所じゃない」
私たちはこの世界をそれぞれに違う言葉で呼んでいたのだ、と青豆は思う。私はそれを「1Q84」という名で呼び、彼はそれを「猫の町」という名で呼んだ。でも示されているのは同じひとつのものだ。青豆は彼の手をいっそう強く握る。
「そう、私たちはこれから猫の町を出ていく。二人で一緒に」と彼女は言う。「この町を出てしまえば、もう昼であれ夜であれ、私たちが離ればなれになることはない」
二人が急ぎ足で公園をあとにするときもまだ、大小の一対の月は緩慢な速度で流れる雲の背後に隠されている。月たちの目は覆われている。少年と少女は手を取りあって森を抜けていく。』