話題を戻すようだが、村上春樹はスガシカオのCDに遭遇した時のことを「しかしどうしてこのCDがうちに直接送られてきたのか、よくわからない」と記している。だが実は、この時村上春樹宛にCDを送ったのは、スガシカオ本人だった。

ーそれからもうひとつどうしても伺いたいことがあって。小説家の村上春樹さんの作品にはスガシカオさんが出て来ますが…。
スガー 大ファンですよ!本で書いていただいて…村上さんの『意味がなければスイングはない』という本で
『スガシカオ論』を書いていただいたんですが、あの一番最後に『なぜ僕の机にスガシカオのCDが置いてあったのか未だに不思議だ』ということを書いてあったじゃないですか。あれ僕が送ったんです!
デビューの時に出版社の方を通じて、村上さんのところに届くようにお願いしますって言って、僕が送ったんですよ、もしかしたら聴いてもらえるかもしれないって思って」
ー村上さんの文学の世界とスガさんの詩の世界はリンクする気がしますね。
スガー というか、僕の方が圧倒的に影響受けまくってるだけで…村上春樹チルドレンなんで(笑)影響大ですよね。‥つづく
(文芸評論家・清水良典 別冊カドカワより)
村上春樹はその章で、まず日本の音楽に対するこれまでの考え方を述べている。「なるべくいろんな種類の音楽を偏見なく、幅広く聴きたいと常日頃考えているし、それなりに努力している」彼なのだが、なぜか日本のポップ音楽は何度も聴こうという気にならなかった。その理由を、彼は次のように書いている。
僕がヘッドフォンをかぶり、Jポップの新譜の海をかきわけるようにしてチェックしながらきわめてしばしば思うのは、「なんだ、どれも新しいコロモに包まれていても、結局のところ、中味は“リズムのある歌謡曲"じゃないか」ということである。
そんな村上春樹のもとにある日、なぜかスガシカオのデビューアルバム『Clover』の見本盤が届けられた。それをとりたてて期待もせずに聴いてみて、彼は「はっとさせられることになった」のである。
「スピーカーの前に座り、居住まいを正して、もう一度始めから聴き直してみた。そして『うーん、これ悪くないじゃん』とあらためて思った」という。その時以来、スガシカオは村上春樹が愛好する唯一の日本人アーティストになった。‥つづく

(清水良典 文芸評論家 別冊カドカワより)
村上春樹の'04年に発行された長編小説「アフターダーク」には、スガシカオの「バクダン・ジュース」が登場する。深夜のラブホテルで起こった暴力事件の鍵を握る携帯電話を、作中人物の男がセブンイレブンで偶然手にするのだが、その時、店内にかかっている音楽が「バクダン・ジュース」だ。
記述の表面上は流行のJポップがBGMでかかっているように、さりげなく曲名だけがかかれているが、
「今さっきまでキッチンで くすぶっていた問題は この強力なpoisonで洗い流してしまった」というこの曲の歌詞の中身を考えると、ここでこの曲のがかかる効果が作者に完全に意図され計算されていることが
よくわかる配置だった。
スガシカオの名前が登場した理由は、しばらく後になって広く知られることになった。
村上春樹の音楽についてのエッセイを集めた『意味がなければスイングはない』が一昨年刊行されたが、
そこにブライアン・ウィルソンやスタン・ゲッツやシューベルトなどとともに、なんとスガシカオについて論じた一章があったのだ。‥つづく
(文芸評論家・清水良典 別冊カドカワより)