ドロップハンドルを使っていると、装備品の制約が
ノーマルハンドルと比べて多いような気がする。

 まず、バックミラーが付けられない。
 尤も、つける気はないが、付けられないとなると、
何か損したような気になって、文句の1つも言いたく
なる因果な性格である。
 まあ、ドロップハンドルにもバックミラーが全く
付かない訳でもない。
 ハンドルエンドに付けるやたら華奢なバック
ミラーがあるのを知っている。
 試したことはあるが、見にくいわ、ぶつかって
曲がって見えなくなるわで、後を向いて直接見た方が
ましだった。
 一応、バックミラーのステーは、バネ機構があって
ぶつかっても復元してミラーの角度を保つ工夫が
されていたが、微調整用のボールジョイント部が
ぶつかってずれるので、意味がなかった。
 ボールジョイント部にロック機構があれば、少しは
ましだったかもしれない。
 ハンドルエンドには、少し大きめのエンド
キャップを付けると、ハンドルエンドを握って思い
切りペダルを踏む時にすっぽ抜ける心配がないので、
専らそっちを使っている。

 バックミラーは、中学進学のときに買ってもらった
セミドロップ車にも付いていた。
 方向指示器のフラッシャー装備なので、一通りの
保安部品は付いていないと格好がつかなかったのでは
ないかと思う。
 バイクに取り付けるタイプで先がネジになっている
ものを、プレスの金具に通して両側からナットで締め
付けるが、バックミラー本体に比べて金具が華奢で
すぐ緩んでしまい使いにくかった。
 セミドロップハンドルは比較的上体を起こして
乗れたので、ノーマルハンドル用のバックミラーが
充分使えた。
 自転車は路肩を走るため、左側のミラーは滅多に
使わないが、両側につけている自転車を結構見かけた。
 新しい自分の自転車が持てて舞い上がって、
あまり使わないような装備も付けて喜ぶ連中が少な
からず出てきたようだった。
 デコチャリが流行るきっかけだったのだと思う。
 反射鏡やキャリアーを付けたり、ハブブラシや
ハブステップあたりまでは実用の範囲内だが、
後フェンダーのやたら幅広くて長い派手なマッド
フラップやエアーホーン(パフパフ鳴るアレです)、
スポークにフックを付けて連続でけたたましく鳴る
ベルあたりになるとなんだか怪しい。
 そして、ハンドルに付ける風車や荷台のダミーの
アンテナ、ステッカーとなると、最早デコチャリ
以外の何物でもない。
 さらにフェンダーやフレーム、チェーンカバーに
ビニールテープを貼付けて模様をつけるのが流行り
だした。

 ビニールテープは当時も色々な色が揃っていた。
 電線を繋いだ後に巻いて絶縁するのが主な目的で、
電線の色に合わせて用意されているのだと思う。
 電線は、使用する用途に応じて色が大体決まって
いる。
 家庭のコンセントの屋内配線は白と黒、エアコンの
アース線は緑、測定器のケーブルは+が赤、-が黒
というのはよく知られている。
 会社でも装置内部の配線を用途毎に色分けする
規定が設けられていた。
 また、一部の電気部品には数字を色で表すカラー
コードがあり、12色で数値を示す事ができる。
 これを使って、10本以上の多芯ケーブルは、
色と帯の数で1本1本のケーブルを区別して、接続
間違いを予防している。
 そんなことを知らない中坊達は、安いDIY店で
いろんな色のビニールテープを買っては、自分の
自転車を飾っていた。
 因みに私はメーターの針にメカ好きの魂を
揺さぶられてスピードメーターを買って付けたが、
小遣いに恵まれていなかったので、後はダミーの
反射鏡に豆電球を仕込んでモーターを発電機代わりに
して点けるくらいに留まった。
 ビニールテープを買うお金があったら100円
プラモやグンゼカラーを買う方を優先した。
 7人家族で兄弟3人いると、どうしても配分量は
少なくなる。
 いろいろなことを我慢して、一人暮らしで反動が
出て積みプラが一気に増えた。
 子供の頃にそこそこ好きなことがやれたら、
こんな事にはならなかったのかもしれない。
 マイナスイメージの多いゆとり世代もそういう
意味ではいいことがあるかもしれない。

 荷台のアンテナといえば、サイクルHAMをやった
ことがある。

 自転車でおこなうアマチュア無線だが、オートバイや

自動車はモービルハムという。

 なんか、エンジンの有無で差別されていそうで

馴染めなかった。
 高校は物理部に所属していたが、中身はアマチュア
無線クラブだった。
 校内駅伝で、中継所を回って連絡を取り合う
ために部のアマチュア無線機を使うことになったが、
台数と操縦者(扱うにはアマチュア無線免許が必要)の
都合で、一部の人はサイクルHAMをおこなうことに
なった。
 当時は携帯電話などなく、これしか手段がなかった。

 電池だと交信時間が持たないので、バイクの

バッテリーをつないだ。

 バイクのバッテリーは当時は小型で高出力だったので、

色々なところで重宝されていて、ラジコンなどののエンジン

始動用は純正の電池などよりずっと安上がりで、専らこれで

済ませていた。
 また、ハンディトランシーバの小型のアンテナだけでは

無線距離を稼げないため、荷台を強化して固定局用の

ごついアンテナを自転車にボルトで取りつけた。
 重量も高さもそれなりなので、車体を左右に
振ってペダルを漕ぐと、持っていかれそうになった。
 アンテナに触ると感度が落ちるので、興味本位で
寄ってくる素人には注意していた。
 部には先輩の私物らしいCBトランシーバーがあり、
放課後の部活の無線はそちらを専ら使っていた。
 無線機は、ワイヤレスマイク程度の弱電波より強い
電波を出す装置の所有と操作は、法律で免許が必要に
なっている。
 弱電波は、せいぜい100m程度しか通信できない
ので、免許不要のCBトランシーバは本来は違法だが、
免許不要なため結構利用者がいて、特に女性の利用者は
YL(Young Ladyの略)と呼んで、人気だった。
 そのため、無線チャンネルの取り合いも激しく、
「つぶし」といって、大音量の音楽を流しっ放しにして、
使えなくしてしまう取合いは、音楽の曲名になぞらえて、
「HELPつぶし」や「SATURDAY NIGHT
つぶし」(地域などで曲目は違っていたらしい)などが
あった。
 因みに、昔、フロントバンパーにアンテナらしい
ポールを立てていた自動車を見かけることがあったが、
これはアンテナではなくて、曲がるときにバンパーを
こすらないようにする目印のポールで、運転の上手な
人達は、「下手くそ棒」と呼んでいた。
 ヘッドライトに連動してポール上部が点灯する仕組み
だったが、そんなことをすればたとえアンテナが付いて
いても感度は落ちてしまう。
 ガラケーの頃にもアンテナ先端にLEDを取り付けて
着信および通話中に光るアクセサリーがあったが、
これもアンテナ感度が下がるため、知っている人は
使わなかった。

 近年、久々にデコチャリを見る機会があった。
 20年以上目にしたことがなくて、てっきり
絶滅していたのかと思っていたので、友人達と
盛り上がって、出現場所の情報交換で話が弾んだ。
 先週末にどこにいたとか、どこですれ違って
どっちへ行ったとか、他愛のない話だったが
楽しかった。
 通称、「バックミラーおじさん」と呼ばれた
持ち主の自転車は、前面にバイク用の大きな
バイザーをつけて、バイザーとその回りに
バックミラーと反射鏡を一面にくっつけた
典型的なデコチャリだった。
 反射鏡は、前後のフェンダーやフォークなど
あらゆる余白に数多く取り付けられており、
スポーク1本1本にもパイプ状の反射チューブが
ついているくらい徹底しており、豪華絢爛だった。
 自転車は前後合わせて30cm、左右合わせて
30cmまでの積載が許可されており、合法の
範囲内で、しかも全て一応は保安部品だったので、
警察にも咎められなかったらしく、結構長い
期間見ることができた。
 自転車の出没情報は割合出ていたが、持ち主の
バックミラーおじさんについては情報が少なかった。
 一度、おじさんが自転車に乗るところを見つけて、
声をかけて知り合いになろうとしたところ、
孤高のオーラを感じて躊躇してしまった。
 好きな自転車が誇らしいというのではないらしい。
 デコチャリとは対象的な持ち主と感じた。
 持ち主の情報が少ない理由が何となくわかった。

 眼鏡をかけている私は、ドロップハンドルを握った
まま後を振り向いて見るのは結構見にくかった。
 普通の眼鏡では、余程首を大きく曲げないと、
はっきり見える眼鏡のフレーム内に後の景色が
入らなくなるためである。
 バックミラーは役に立たないのは思い知って
いたが、目視しか手段がないので半分諦めていた。
 そんな中、社会人になって予備の眼鏡は必要
だろうと入った眼鏡屋で、いいものを見つけた。
 レイバンタイプのフレームの眼鏡である。
 眼鏡屋ではナス型というそうだ。
 レイバンのサングラスはフレームが華奢で作りが
悪い上に高く、眼鏡屋も留め金の作りが悪いため
何度かレンズ交換すると駄目になると聞いていて、
全く買う気はなかったが、掛けて見たら自転車乗りに
適していることがわかった。
 フレームが左右に広くて、特に両脇の下に伸びて
いて、この部分がドロップハンドルを握ったまま後を
見たときに、丁度後方になってぼやけずに見える
のである。
 通常の眼鏡では半分以下しか見えないところを2/3
ぐらいまで見える、これは画期的だった。
 丁度その頃は、レイバンがまだ流行っていた時期で
他の眼鏡メーカーもこのタイプのフレームを作って
売っていた。
 フレームが大きいため、レンズは芯を修正してから
フレームに取り付けなければならないので、料金は
多めにかかるが、便利さに負けて2つ買った。
 1つはレノマ、もう1つはニコンだった。
 その後、オークリーのスポーツグラスが流行したが、
グラスは両脇下に伸びており、やはりこの形は意味が
あったのだと再認識した次第。
 また、上側のブリッジには汗止めというバンパーが
付いていて、目頭に流れる汗を多少なりとも防いだり、
眼鏡をぶつけた時に鼻当てにかかる力を分散させて
くれる。
 10年位で、樹脂製のバンパーは割れて取れてしまい、
代わりのものは売っておらず、残念に思った。

 また、夏の強い日差しや地面の照り返しで眩しい時、
サングラスが必要になるが、度のついたサングラスは
室内では見えにくくなるので使えず、クリップオン
タイプのサングラスが必要になる。
 眼鏡のフレームに引っ掛けて、サングラス部分を
フフリップさせる年配者に馴染みの馴染みのアタッチ
メントは、厚手の樹脂製のセルロイドフレーム用が
殆どで、細い金属フレーム用はなぜか見つからなかった。
 ところが、夏に開かれるスキー用品の展示会で
レイバンタイプ用のクリップオン式のサングラスが
見つかった。
 当時、スキー用品のニューモデルは夏に水道橋界隈の
ショップで展示発表があり、夏にもかかわらずこの時
ばかりはスキーショップが大賑わいになる。
 友人がモノスキーの愛用者で、こういう時しか
まともに現物が見られないと言うので、見に行った
次第。
 サングラスのメーカーはスキー用品メーカーの
SWAN。
 ゲレンデの強い光を防ぐためのものだとか。
 サングラス部分はフリップしないが、サンバイザーの
ように風に煽られたりしないし、使わない時はしまうのに
かさばらないし、専用のシースが付いていてキズを
防いでくれるので長持ちしており、今も使っている。
 レイバンのサングラスは、その後現れたオークリーの
シェアに圧されたせいか、次第に廃れてこのタイプの
眼鏡フレームは店頭で見なくなって、予備のフレームの
入手の宛がなくなったが、2つのフレームを交互に
使って何とか今まで使い続けている。
 転んでフレームが曲がってもペンチでなんとか
曲げ直したり、耳掛けが折れてもシリコンチューブと
針金で代用した。
 鼻あてのステーが折れたときは流石に諦めかけたが、
老舗の眼鏡屋がロー付け技術を持っていて、修理が
できて助かった。
 今はその店も閉店してしまい、また折れたら最後と
覚悟している。
 しかし、朗報があった。
 たまたま見に行った眼鏡屋で店主が声を掛けて
くれて、レイバンの話をしたら、眼鏡用のフレームが
レイバンのモデルで1つ出ているそうだ。
 滅多に出ないらしく、取り寄せになると言うので
買うとき以外は実物を目にする機会はなさそうだ。
 カタログによると、レンズサイズは手持ちのものと
ほぼ同じなので、多分使えると思う。
 安くはないので、資金を貯めて30年振りに
予備のフレームを増やしてみようかと思っている。