先週、東京競馬場で行われました牝馬

クラシック第2戦第85回優駿牝馬

(オークス)は2番人気のチェルヴィニアが

直線で大外から鋭く伸びて、内をついて

先頭に立ったステレンボッシュをゴール前

で差し切って優勝。

第85代樫の女王に輝きました。

2着には1番人気のステレンボッシュが入り

3着には3番人気のライトバックが入り

ました。

今週は、東京競馬場で春のクラシックの

クライマックス、競馬の祭典、第91回

東京優駿(日本ダービー)が行われます。

東京優駿は1932年(昭和7年)に

イギリスのダービーステークスを範として

目黒競馬場にて創設されました。

後に創設された皐月賞・菊花賞と共に

三冠競走を構成しています。

そしてダービーに優勝することは、日本の

競馬に関わるすべてのホースマンが

憧れる最高の栄誉あるレースとされて

います。

昭和期では皐月賞は最も速い馬が勝つ、

菊花賞は最も強い馬が勝つ、ダービーは

運のある馬が勝つと言われていました。

日本の競馬における日本ダービーの

存在は特別で、創設期より日本競馬に

おける最大の栄誉ある大競走とされて

います。

その年の競馬を語る時は必ず東京優駿

(日本ダービー)優勝馬が挙げられるように

日本競馬界の象徴であり、ホースマンに

とっての最大の目標であるとことは創設

以来、変わっていません。

 

思い出の馬は殺人ラップ、狂気の

ハイペースで今までの常識を覆した

カブラヤオーです。

カブラヤオーの父はファラモンドで

競走実績も乏しく、血統的には良血では

ありませんでしたが、中央競馬では

エリザベス女王杯を制したカブラヤオーの

妹ミスカブラヤやユーモンド、ケイリュウ

シンゲキの他、公営競馬では南関東の

三冠馬ゴールデンリボー、東京ダービーを

制したトキワタイヨウ、ダイエイモンド、

サンコーモンド等を輩出しました。

カブラヤオーは昭和50年クラシック組で

同期には牝馬ではテスコガビー、牡馬では

天皇賞馬エリモジョージ、ロングホーク、

ロングファスト、イシノマサル、ファイブワン、

ハーバーヤング等がいます。

 

カブラヤオーは旧馬齢3歳の秋の東京で

デビューしましたが、特に血統や見栄えが

良いわけでもなく、調教でも良い走りを

見せていなかったことから16頭中

7番人気という低評価だったものの

この新馬戦で2着と大健闘しました。

続く2戦目を圧勝して初勝利を挙げると

条件特別戦に参戦、しかしここでもまだ

13頭中8番人気という低評価でしたが

6馬身差をつけて圧勝。

この勝利で一気にカブラヤオーの評価は

激変し、これ以降カブラヤオーが引退する

まで常に1番人気に支持されることになり

ました。

年が明けて4歳になったカブラヤオーは

ダートで行われたジュニアカップで

10馬身差をつけて圧勝し、3連勝を飾ると

関東のクラシック候補として東京4歳

ステークスに参戦しました。

このレースには最優秀3歳牝馬に選出され

当時4連勝中の怪物牝馬テスコガビーも

参戦を表明したため、両馬の鞍上であった

菅原騎手が、どちらの馬に乗るかが話題と

なりましたが、菅原騎手の師匠である茂木

調教師のアドバイスにより、菅原騎手は

他厩舎のテスコガビーに騎乗することに

なりました。

レースはテスコガビーが最初にハナを切り

カブラヤオーも譲らず2頭の先行争いに

なりましたが、テスコガビーが共倒れを

避けて2番手に控えたため、向正面で

カブラヤオーが先頭に立ち、逃げる展開

になりました。

直線に入ってカブラヤオーは馬場の中央

から、テスコガビーは外から追い込んで

カブラヤオーに迫りましたがカブラヤオーも

譲らず、坂をあがったところで、内から追い

込んで来たイシノマサルにカブラヤオーが

驚き、大きく外に斜行してしまう場面もあり

ましたが、何とか体勢を立て直し、長い

テスコガビーとの叩き合いのすえ、

カブラヤオーがテスコガビーをクビ差

押さえて優勝、重賞初制覇を果たしました。

しかしこのレース以後、両馬が対戦する

ことは二度と無かったことから、

この東京4歳ステークスは伝説のレース

として今でも語り継がれています。

続いてカブラヤオーはクラシックの登竜門

である弥生賞に出走。

いつものような逃げを展開し、関西から

クラシック候補として参戦してきたロング

ホークを直線で突き放して優勝を飾り、

堂々とクラシックの主役に躍り出ました。

そして迎えたクラシック一冠目の皐月賞、

このレースには打倒カブラヤオーを

目指し、関西からロングホーク、ロング

ファスト、エリモジョージ等が参戦。

1番人気はもちろんカブラヤオーで

2番人気にはロングホークが推されました。

レースはレース前に逃げ宣言をしていた

レイクスプリンターが強引に先手を取りに

行って、カブラヤオーと競り合いを演じ、

前半の1000ⅿを58秒9という短距離

レースのような驚異のハイペースとなり

ました。

3番手にはイシノマサル、その後ろから

ロングファストが続き、ロングホークは

中団からという展開となりました。

このハイペースにより第3コーナーで

早くもレイクスプリンターが脱落し、その後

レイクスプリンターは脚を骨折して競走を

中止、レース後、予後不良と診断され

安楽死処分となってしまいました。

この状況からもいかに常識外れの

殺人ラップだったかが分かります。

第4コーナーでイシノマサル、ロングファスト

ロングホークが仕掛けてカブラヤオーと

並ぶようにして直線へ。

内からイシノマサル、真ん中からロング

ホークとロングファストがカブラヤオーを

包むように追い込んできました。

普通の馬だったなら、このハイペースで

力尽きて馬群に沈むところですが、

カブラヤオーは直線で更に伸びて、

ロングホークとロングファストを突き

放して優勝を飾り、クラシック第一冠目を

獲得しました。

このカブラヤオーの勝利に対し、競馬

関係者は驚きを隠せませんでした。

この後、現在であれば日本ダービーに

直行することになりますが、過酷な皐月賞

だったにも関わらず、カブラヤオーは

当時のダービートライアルNHK杯に

出走しました。

このレースには皐月賞組からイシノマサル

ロングファスト、エリモジョージ等が参戦。

レースは不良馬場の中で行われました。

このレースではカブラヤオーの鼻を奪うと

宣言していたトップジローが宣言通り逃げ

カブラヤオーはダービーを意識したのか

不良馬場を嫌ったのか、4番手におさえ

馬場の少しでも良いところの外々をまわる

展開となりました。

第3コーナーでトップジローが後退し

馬群に消えていくと、やはりカブラヤオーが

第4コーナーでカネマフジを交わして

先頭に立って、直線の勝負へ。

カネマフジが内をついて差し返そうとする中

馬場の中央かカブラヤオーが突き放しに

かかり、外からロングファストが懸命に

追い込んで来たものの、カブラヤオーは

更に加速し、ロングファストに6馬身差を

つけて圧勝しました。

そしてカブラヤオーはクラシック二冠を狙い

第42回東京優駿競走(日本ダービー)に

出走しました。

この年のダービーはフルゲート28頭立てで

行われ、カブラヤオーは当然のことながら

キタノカチドキ以来の単枠指定(シード馬)

となり、1番人気に推されました。

スタートして菅原騎手はカブラヤオーに

出ムチをくれて先頭に立ちますが、今度は

トップジローがしつこくカブラヤオーに絡み

先頭を争う展開となりました。

両馬は競り合いを続け、前半1000mを

皐月賞の殺人ラップを更に上回る

58秒6で通過し、後続馬を10馬身近く

離す展開となりました。

トップジローがレイクスプリンターのように

壊れるのか、カブラヤオーが最後に失速

するのか、この前代未聞の暴走的逃げに

場内は騒然となりました。

先行集団にはイシノマサル、タイフウオー

がいて、その後ろからハクチカツ、そして

ロングホークとロングファストは中団を進み

ハーバーヤング、イシノアラシは

後方からというレース展開となりました。

第4コーナーでハクチカツが2番手に上がり

ロングホークとロングファストも差を詰めて

直線の勝負へ。

カブラヤオーが先頭で馬場の真ん中を

通る中、外からハクチカツ、内からロング

ホークとハーバーヤング、その後ろから

ロングファストが追い込みましたが、

カブラヤオーは、あの驚異のハイペース

だったにも関わらず、失速するどころか

他馬が近づくと、更に伸び脚をみせて

先頭を譲らず、ゴール前では完全に

後続馬を振り切って優勝を飾り、

第42代ダービー馬に輝きました。

後日、ダービーでの菅原騎手の出ムチを

使っての狂気の逃げについて、多くの

賛否両論がありましたが、それでも常識を

覆して逃げ切って勝ったカブラヤオーは

本当に素晴らしかったと思います。

夏を休養したカブラヤオーはシンザン

以来の三冠馬誕生を期待され菊花賞を

目指しましたが、菊花賞が迫る9月下旬に

左脚の爪を深く切りすぎたのが原因で

今でも不治の病と言われる屈腱炎を発症、

菊花賞を断念せざるを得なくなりました。

カブラヤオーの菊花賞断念を受け

菊花賞のレース前、杉本アナが

「夏を越すことの難しさ、三冠の難しさを

嫌というほど思い知らされて迎えました

第36回菊花賞です」と言っていたことが

今でも印象に残っています。

この年、カブラヤオーは、秋シーズンは

不出走だったものの、春の活躍が評価され

年度代表馬と最優秀4歳牡馬に選出され

ました。

 

休養後、年が明けて5歳になった

カブラヤオーは5月のオープン競走で復帰

斤量60キロを背負ったものの、見事に

逃げ切って復帰戦を勝利し、9連勝を飾り

ました。

続いて6月のオープン競走に今度は

斤量61キロを背負って出走しましたが、

スタート直後にゲートに頭をぶつけ、

脳震盪を起こすというアクシデントに

見舞われ、最下位の11着に大敗しました。

その後、夏の札幌に遠征し、短距離Sで

逃げ切り勝ちをおさめ、その後東京に

戻ってオープン競走で斤量62キロを

背負いながらも、スピリットスワプスや

トリデジョウ、フェアスポートをやぶって

快勝し、次なる目標である天皇賞秋を

目指しました。

しかし、天皇賞秋を前に再び屈腱炎を

発症し、二度と復帰することなく無念の

引退となってしまいました。

 

引退後は北海道で種牡馬となりましたが、

当時は内国産種牡馬不遇の時代でもあり、

カブラヤオーは良血ではなく、見栄えも

悪かったことから、当初は苦戦するだろうと

言われていました。

しかし、カブラヤオーはここでもその評価を

見事に覆し産駒からはエリザベス女王杯に

優勝したミヤマポピー、ダービー2着の

グランパスドリーム、京成杯3歳ステークス

を勝ったマイネルキャッスルや公営では

東京王冠賞に勝ったニシキノボーイ等、

多くの活躍馬を輩出しました。

 

記録によりますと

カブラヤオーは1996年に種牡馬を引退し、

引退後は栃木県の那須種馬場にて余生を

送っていましたが、2003年8月9日

老衰のため、31年の波乱の生涯に幕を

下ろしました。

13戦11勝という素晴らしい戦績と共に

カブラヤオーのあの驚異的な逃げは、

記録にも記憶にも残る名馬として今でも

語り継がれています。

 

今週は東京競馬場で春のクラシックの

クライマックス、競馬の祭典、第91回

東京優駿(日本ダービー)が行われます。

皐月賞馬ジャスティンミラノ、ダノンエアズ

ロック、シンエンペラー、シックスペンスに

注目しています。

あのスキルヴィングの悲劇から1年が

経ちました。

二度とあのような悲劇が起きないよう

今週も全人馬の無事を祈りながら

レースを観ます。