認知症薬開発に賭ける執念 | フレイルも認知症も減らない日本

フレイルも認知症も減らない日本

Nobody is in possession of the ultimate truth.

ウイルスと戦争の世紀で人生を終えることになるとは・・・まさに第三次世界大戦前夜の状況ですからね しかも本日は日本の金融市場はトリプル安

オツムの性能は一部の例外を除き、
確実に・・・。





日本経済新聞より。




認知症薬、
まだ諦めない 
エーザイ社長の執念



世界のメガファーマの向こうを張って「人類最後の敵」認知症への挑戦を続けているのがエーザイだ。

3月に最も有望だった新薬の開発を断念、株価は今も低迷するが、社長の内藤晴夫は依然意気軒高だ。

エーザイの売上高は約6000億円と世界40位前後。

10倍規模の開発費を持つメガファーマですら難渋する認知症薬の開発に総力戦で挑む内藤は空気が読めないだけの「KY社長」に終わるのか。それとも米アップルのスティーブ・ジョブズのように、常識を疑い空気を読まないことで次元の違う成功をつかむイノベーターなのか。



■株主総会で謝罪



「ご心配とご迷惑をおかけしました」。

6月20日、東京・高田馬場のホール。エーザイが開いた定時株主総会の冒頭、内藤は1600人を超える株主に、深々と頭を下げた。

理由は株価急落だ。

同社は3月21日に製品化目前の認知症薬「アデュカヌマブ」の開発中止を発表。翌日、株価は制限値幅の下限(ストップ安水準)となる前営業日比17%安の7565円まで下げた。

だが内藤のスピーチは、謝罪だけに終わらなかった。

「まだ期待できる新薬候補があります。全社一丸となっていきますので、ご支援お願いします」。

会場は内藤の変わらぬファイティングスピリットを支持する拍手に包まれた。

とはいえ認知症治療薬の壁は極めて高い。

米国立衛生研究所(NIH)や米アルツハイマー病協会などの報告では2000年以降、世界の製薬大手33社が治療薬の開発に6000億ドル(約65兆円)以上を投じてきたが、そのほとんどが失敗。


キョロキョロ冷静に考えてみて下さい
未だに脳梗塞の後遺症である
片麻痺でさえ治せないのだから
失敗するのは当然です


昨年も米大手ファイザー、メルク、イーライ・リリー、今年に入ってからスイスのロシュも有力候補の開発中止を発表した。依然光明が見えず「人類最後の敵」とされる。



■認知症薬のパイオニア



それでも内藤が挑戦を続けるのは1997年に世界で初めての認知症薬「アリセプト」を開発したパイオニアという自負があるからだ。

「チョコラBB」ブランドの大衆薬などで知られるエーザイだが、実は医療用医薬品が連結売上高の9割を占める新薬メーカー。

一躍その名を世界に知らしめるきっかけになったのがアリセプトだ。ピーク時の売上高は3000億円超。売上高1000億円超の「ブロックバスター」に育ち、エーザイの成長を支えてきた。

「次の薬を出すのはアリセプトを生み出した者の使命」。

内藤は力を込める。

だが発売から20年が過ぎたが、いまだに新薬を生み出せないでいる。失敗を繰り返しても尽きない挑戦心の源はどこにあるのか。

内藤の経歴をたどるとその一端が見えてくる。

エーザイは内藤の祖父、豊次が1941年に創業した。父の祐次が2代目社長を務め、晴夫は生まれながらにしてエーザイを率いる運命を背負っていた。「泰然自若とした、一目置かれる風格があった。偉ぶるのではないが、どこか親分のような感覚があった」。都立小石川高校で内藤と机を並べた多摩美術大学学長の建畠晢は話す。

建畠の記憶に強く残っている場面がある。

部落差別を描いた住井すゑ氏の小説「橋のない川」を読んだときのこと。ふだんは温厚な内藤が「こんなことはあってはいけないんだ」と声を荒らげた。


■マーケティングの第一人者に師事



経営に目覚めたのは大学時代だ。

当時の小石川高校は「3人に1人は東大に入るような超進学校」(建畠)だったが、実学志向だった内藤は慶応義塾大学商学部に進んだ。

そこで出会ったのが当時の日本のマーケティング論の第一人者、村田昭治だった。

内藤は「先生にほれ込んでご自宅に入り浸って、はがきの宛名書きとかテープ起こしとかを毎日喜んでやっていた」と振り返る。

村田は経営者がビジョンや夢を語ること、イノベーションに挑戦することの重要性を繰り返し説いてきた。

そんな考え方が、後の内藤に影響を与えたのかもしれない。


大学卒業後は米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院に留学。当時の日本ではまだ珍しかった経営学修士号(MBA)を取得した。

早くから世界に目を向けていた。

その後、エーザイに入社。

社長となる帝王学の一環として営業や人事などを一通り経験した後に、総仕上げとして36歳で就任したのが筑波研究所(茨城県つくば市)のトップ。文系出身者が就くのは極めて珍しいが、くせ者ぞろいの研究者たちをいきなり掌握する。

「夜になると内藤さんが酒を持って激励に回ってくる。来るたびに夢を語るわけ。話を聞くときは必ずきちょうめんにメモを取る。ドリーマーで現場主義者でもある。研究者としてはぐっとくるよね」。

当時、アリセプトの開発を進めていた杉本八郎は振り返る。

一方で所内に6つの研究室を設け、効果的な新薬候補をどこがつくれるかを競わせた。

すると将来の社長の下で新薬をつくろうと各研究室が躍起になり、開発のスピードが急に上がった。研究は深夜におよび、ライバルから「エーザイ不夜城」と恐れられた。



■研究所を「不夜城」に



「サイエンスはわからないが、サイエンティストは理解する」。内藤の弁だ。

競争がやる気をかき立てる重要な要素であることを学び、エーザイの3代目社長に就いたのは1988年、40歳の時だった。

「世界製薬トップ20社入り」。

内藤は就任後、こんな目標を掲げ、90年代に海外に本格展開する。海外での開発・生産を積極化。アリセプトなどのヒットも足がかりとなり2001年に目標を達成した。

「厳しいけど温かい人」。

社長直轄の製品戦略部で内藤に仕えた福島弘明(ケイファーマ社長)の人物評だ。

「社長は指示するときに『メモするな、ちゃんと覚えろ』と言うが、自分でも絶対資料は受け取らない。その場ですべて覚えて帰る。数千人の社員の名前や人となりが、ほとんど頭の中に入っていた」

内藤のワンマンぶりからエーザイを、キャッチフレーズの「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」をもじって「晴夫(h)・1人の(h)・カンパニー(c)」と皮肉る声もある。それでも求心力を維持できているのは、自分に対する厳しさあってこそだ。

そもそもワンマンでなければ世界大手のファイザーですらあきらめた認知症薬の開発をエーザイの規模の会社が続けるのは難しい。

「リスクを取らないことは薬屋を辞めること」。

内藤は株価が低迷を続けていても強気を崩さない。背景にあるのは、患者や家族の期待の大きさと、成功した場合に生じる巨大なビジネスだ。



■認知症患者、2050年に1億5200万人に



全世界の認知症患者数は2018年時点で5000万人とされる。30年に8200万人、50年に1億5200万人に増えるとの予測もある。「先が見えない不安と戦う患者や家族のために、認知症を根本から抑える薬をどうにか世に出してほしい」。

認知症の人と家族の会(京都市)の元事務局長、阿部佳世の訴えは切実だ。

家計や政府の負担も膨らむ一方だ。

米アルツハイマー病協会の試算では、2050年時点で発症を5年遅らせることができれば、米国だけで患者数は4割減り介護などにかかる費用を3670億ドル(約40兆円)減らせる。

治療薬は世界が待ち望んでいる。

本格的な新薬を出せれば売上高1兆円クラスの「超ブロックバスター」も夢ではない。

ゴールが見えないとはいえ、エーザイは世界で次の認知症薬に最も近い製薬会社の一つだ。

アデュカヌマブは頓挫したが「BAN2401」と「エレンベセスタット」が最終治験に入っている。認知症の原因物質の一つとされる「アミロイドβ」を標的とする治療薬だ。

別の原因物質「タウ」を狙った薬も準備している。認知症研究で知られるユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)との共同研究でつくった抗体「E2814」で年内にも治験に入る計画だ。

米バイオジェンが治験中の「BIIB076」の共同開発権も持つ。


■がん治療薬で時間稼ぎ



米マサチューセッツ州には認知症治療薬の研究所を新設した。原因の一つとされる免疫異常による神経炎症を抑える化合物を発見し、20年までの治験入りを目指している。

UCLや英国立研究機関との連携も強化する。

「『下手な鉄砲』ではないが、これだけ撃てばどれかはあたるかもしれない」(国内証券アナリスト)

内藤が今、認知症薬に注力できる支えとなっているのが、がん治療薬「レンビマ」だ。15年に発売、17年度の世界売上高は320億円にすぎなかったが、18年のメルクとの提携で一気に「化けた」。

エーザイは20年度までに最大6100億円を受け取る契約となっている。

とはいえ株価が一段と下がるようなら、市場から路線変更を迫られる可能性はある。レンビマも26年ごろに特許切れを迎える。その後の稼ぎ頭候補は見当たらない。

現在71歳の内藤には、後継者問題も重くのしかかる。

市場は認知症薬の失敗をしのぐ「最大の経営リスク」(外資系証券アナリスト)ととらえている。3つの「時間との闘い」に内藤は直面している。


■3つの「時間との闘い」



後継について内藤は「トップシークレット」とするが、にわかに浮上しているのが長男の内藤景介だ。まだ30歳だが6月に執行役に就いた。肩書は「DTIE本部長」だ。DTIEとは「ディメンシア・トータル・インクルーシブ・エコシステム」の略。新薬発売に向けた市場調査や承認への手続き、認知症の予防や早期発見を研究する。


予防から早期発見、治療まで。

認知症と闘う内藤の執念が実を結ぶのか。

時間切れとなるのか。これからが正念場だ。