備蓄iPS 日本人半数カバー「2~3年で」  | フレイルも認知症も減らない日本

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この領域では
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朝日新聞より。


備蓄iPS
日本人半数カバー
「2~3年で」 
山中所長

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 多くの人と免疫の型が合う再生医療用のiPS細胞を製造、備蓄する京都大iPS細胞研究所(CiRA)のストック計画で、2~3年後には50%超の日本人に使える種類が準備できる見通しになった。

山中伸弥所長が5日、朝日新聞のインタビューで明らかにした。今後、日本人の80~90%に使えることを目指す一方、状況次第では見直しの可能性も示唆した。

 ストック計画は、再生医療の実現に向けて国が10年間で1100億円投じる事業(2013~22年度)の基盤事業で、国が全面的に支援している。計画の今後について、月内に開かれる見通しの文部科学省の作業部会で山中所長も出席して議論する。

 iPS細胞を患者一人ひとりからつくると、培養や品質検査に時間と費用がかかる。ストック計画では、検査済みのiPS細胞を増やして研究機関や企業に配り、様々な組織の細胞に変えて移植に使ってもらう。

 他人の細胞を移植すると免疫による拒絶反応が起きる。計画では、原料となる血液の細胞を、免疫の型が他人とよく合う人に提供してもらい、患者と型を合わせられるようにする。

 こうした型を持つ人はまれで、今年度までに「日本人の30~50%」、来年度からの5年で最終的に「日本人の大半」と型が合わせられる種類の準備が目標。

今年度末までに3種類を準備でき、約30%をカバーできる予定だという。

 山中所長は「50~60%カバーできる約20人の提供者を見つけているが、iPS細胞をつくるのが遅れている。製造完了は2~3年後になる」と述べた。

 ただ、多くの種類のiPS細胞をそろえても、最終的にどこまで使われるかは不透明だ。細胞製品の評価方法がはっきりしていなかったり、iPS細胞をめぐる特許も未解決の部分があったりして、企業が使用に二の足を踏む懸念がある。

山中所長は「(これらの)問題が立ちはだかるなら、方針を変える必要は十分ある」とした上で、「私たちは両方克服できると信じている」と語った。

提供者探しの壁、今後高く

 京都大iPS細胞研究所(CiRA)の山中伸弥所長らがヒトからの作製に成功したと発表して10年。

「万能細胞」への期待と高揚感に包まれた時期は過ぎ、iPS細胞を使った再生医療が広まるか、節目を迎えている。

 「10年前は世界で誰もやったことがなく、雲をつかむような話だったが、5年で何が課題か極めてはっきりした」。

山中所長はインタビューでこう語った。

 拒絶反応が起きにくいタイプのiPS細胞をすぐに提供することを目指すストック計画。

重要なのが「細胞の血液型」とも言われる「HLA」というたんぱく質の型だ。数万種類あるHLAの組み合わせで型が決まる。

通常は1人が父親と母親から受け継ぐ二つの型を持つ。簡単には一致しないが、まれに二つの型が同じで一定数の他人に拒絶されにくい人がいる。

そういった人に提供してもらった血液からiPS細胞を備蓄する。

 CiRAは日本赤十字社と協力し、日本骨髄バンクに登録する人の中から、拒絶されにくい型を持つ人を探すなどして、50%をカバーする約20人の提供者を確保した。

「日本人の2人に1人と合わせられるようになるのは、医療現場にとって非常に大切」と山中所長は強調した。

 だが今後、提供者探しはだんだん難しくなる。

2015年にできた1種類目は、最も多い型を持つ日本人をカバーでき、日本人の17%に有用だ。

この提供者は約150人に1人の割合で見つかる。

次に多い型が2種類目で、カバーできるのは7%。3種類目以降もその割合はどんどん低くなり、合計で目標の約80%になる75種類目は、0・2%しかカバーできない。

しかも提供者は数十万人に1人しかいない。山中所長も「今後は想像以上に提供者を見つけることが大変だと分かってきた」と話す。

 治療に使うため、厚生労働省の承認を得ようとする際、安全性を示すデータがどこまで必要かという前例もない。

例えば数十種類のHLA型のiPS細胞から数十種類の目の細胞ができたとき、すべての細胞で動物実験などをして確かめると多額の費用と時間がかかる。

 また、iPS細胞をつくる方法に関する特許は、CiRAが全てを持っているわけではなく、別の企業が持つ特許にからむ可能性もある。

ストックの細胞を使った再生医療が実現すると、特許使用料が発生するかもしれないが、条件はまだはっきりしていない。

 こうした点も山中所長は課題に挙げ、「克服しないと今までやってきたことが全部無駄になってしまう」と懸念を示した。

 現在、iPS細胞を使った治療は、理研チームが患者に試したことがあるだけで、有効性や安全性は十分証明されていない。

iPS細胞を使う再生医療製品ができても、普及するにはすでに出回っている治療法を、価格面や治療成績で上回る必要がある。

 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の松山晃文センター長は「iPS細胞の研究は、日本が世界を牽引(けんいん)する数少ない領域だが、医療応用に向けた国際競争が激しい。まずは、iPS細胞ストックによって、多くの困っている患者が安価で安全な医療を受けられることを実証してほしい」と語る。

     ◇

 〈iPS細胞〉 血液や皮膚の細胞からつくることができる万能細胞。無限に増やせ、体の様々な細胞になれる。人の組織に変えて移植する「再生医療」のほか、これを使って薬の候補を探し出す「創薬」への応用が期待されている。ストック計画のiPS細胞を目の細胞に変えて網膜の病気を治療する臨床研究を今年、理化学研究所などのチームが始めたほか、神経の細胞に変えて脊髄(せきずい)損傷の患者を治療したり、心臓の筋肉の細胞に変えて重い心不全の患者の手術に使ったりするための準備が進む。山中所長らの研究グループが2006年にマウス、07年にヒトで初めて作製に成功し、山中さんは12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。


山中伸弥所長の主な発言

 山中伸弥・京都大iPS細胞研究所(CiRA)所長のインタビューでの主な発言は次の通り。

 ――計画の進捗(しんちょく)状況は

 少し遅れているが、日本人の50%超をカバーできる提供者をすでに見つけており、製造完了するのは2、3年後になる。10年で大半の日本人がストックを使えるという目標は変わらないが、もう少し長くかかる。

 ――課題は

 企業が持っているiPS細胞にかかわる特許もあり、(活用できるようにするには)今後も交渉が必要だ。また、多くの種類のiPS細胞を作ったときに、(国の承認を得ようとする際に安全性を示すデータとして)それぞれ動物実験を要求されたら費用がかかり、企業が結局使わないと思う。(これらの問題が解決できないと)ストックを作っても使われない可能性が高くなるので方針を変える必要は十分あるが、克服できると信じているし、それができるのはCiRAだ。

 ――血液の提供者探しについて

 最初の5年間をやってきて、明確になった問題点がいくつかある。今後は想像以上に提供者を見つけることが大変だと分かってきた。ここを解決しないと、80%、90%まで何年たってもいかない可能性がある。

 ――国の支援について

 非営利であるCiRAが責任を持って今後も遂行しないといけないと確信している。国にも必要性を訴え、今後も支援していただきたい。国も色々な考えがあるでしょうから支援が続かないなら、一般の方からの寄付も使ってとにかく続けていくことが大切だ。