いよいよですな〜
日本経済新聞より。
死なないカラダ
38兆円市場
争奪始まる
病気やけがで機能しなくなった組織や臓器を新しいものと置き換える「再生医療」。
ここに来て研究開発から実用段階に入ってきた。国が期待するiPS細胞の分野では、目の難病治療を目指す臨床研究が2017年前半にも再開される。
「死なないカラダ」の時代が今、
幕を開ける。
昨年末、
再生医療業界で「事件」が起きた。
富士フイルムホールディングス(HD)が武田薬品工業傘下の和光純薬工業を買収、子会社にすることを決めたのだ。
子会社にする時期は17年4月。
富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は4~5年前から欲しいと考えていたという。
培地を手掛ける和光純薬の買収で再生医療の川上から川下までカバーできる体制が整う。
今年は研究機関や大学、企業が
「人体再生」
に向け一歩踏み出す年になりそう。
筆頭格は理化学研究所だ。
京大iPS細胞研究所(CiRA)、大阪大学、神戸市立医療センター中央市民病院の3機関とタッグを組み、iPS細胞の臨床研究の2例目に取りかかる。
視野がゆがみ視力が下がる目の難病「加齢黄斑変性」の治療に取り組む。
iPS細胞を使った加齢黄斑変性の治療の1回目の挑戦は14年9月。理研の高橋政代プロジェクトリーダーらが挑んだ。世界初の臨床研究として注目された。
1例目は患者自身のiPS細胞から作った網膜の細胞の移植に無事、成功した。ただ、費用が1億円近くに膨らみ、移植用の細胞の作製や検査に膨大な時間がかかるなどの課題が残った。
その後、2例目の臨床研究が行われようとしたが、作ったiPS細胞に遺伝子変異が見つかるトラブルが発生。当面、移植を見送る措置がとられていた。
今年、その臨床研究が再び始まる。
移植後の拒絶反応が起きにくいタイプの人の細胞からiPS細胞を作ってこれを移植する計画。成功すればiPS細胞の臨床応用に大きく道が開く。
日本再生医療学会の澤芳樹理事長(大阪大学教授)はこう力を込める。再生医療が広く一般の治療現場に浸透していくためにはビジネスとして成立することが不可欠になる。再生医療分野への大企業の参入はその追い風となる。
武田薬品工業はCiRAとがんや心不全などの治療でiPS細胞を応用するための共同研究を開始。
製薬会社以外にもニコンや京セラ、日立化成などが再生医療分野への参入を狙う。
経済産業省の試算で「50年に38兆円」とする巨大市場の争奪戦が活発になっている。
14年11月に施行された医薬品医療機器法(旧薬事法)では再生医療製品について製造・販売承認の手続きが簡単になった。
現時点でジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)の2製品と、テルモの重症心不全治療に使う「ハートシート」など4製品にとどまる製品数が拡大することが期待される。
今のところ17年に新たに保険適用となる製品はまだ見当たらない。世界レベルで激しさを増す再生医療分野で日本勢が頭1つ抜け出すことができるのか、今年は1つの分水嶺となる。
■医療技術、次々手中に
神奈川県西部、開成町にある富士フイルム先進研究所。2006年にオープンしたこの富士フイルムグループの頭脳といえる施設の中に、再生医療研究所がある。
ここでは細胞を培養するために必要な足場材となる独自の「リコンビナントペプチド」を活用した組織再生などに向けた研究開発に取り組んでいる。
富士フイルムは世界でも再生医療分野に最も熱心な企業の1つだ。自家培養表皮・軟骨という日本初の再生医療製品を世に出したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)を14年末に連結子会社にしたのに続き、15年にはiPS細胞の開発・製造を手掛ける米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)を買収、17年4月には和光純薬工業も傘下に収める。
「再生医療に必要なピースはすべてそろった」と古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は自信をみせる。
畠賢一郎・再生医療研究所長は「部品はたくさんあるので、それを新しいものに組み立てるようなイノベーション(技術革新)が必要」と話す。
伴寿一・再生医療事業部長は「現状の再生医療は、20年前の抗体医薬品に似ている」と話す。
当時の抗体薬の研究開発は主体がベンチャー企業だったが、今では抗体薬が世界の医薬品売上高トップ10の半分以上を占めるまでになった。
富士フイルム全体の再生医療事業は赤字だが、「19年度からは黒字化を目指す」(伴氏)。
自社での再生医療製品の開発を進めつつ、受託生産ビジネスを拡大する青写真を描く。
続きます