第2部
第一章
一
また始まった。
俺は落ちていた。
深い、深い、底へ落ちていた。
いや、深いと思える、底の底へ落ちていた。
ここから出るにはどうしたらいいのだろうか。
・・・此処に出口はあるのか?
壁?に触れた左手を頼りに俺は歩き出した。
此処は何処だ?
俺は何処にいるんだ?
辺り一面にわたる闇、闇、闇の連続。
だが、本当の闇ではない、なぜなら、辺り一面が見渡せる薄暗さがあるからだ。
此処は何処だー。
その時、彼の頭に直接響く声があった。
来る。
来る。来る。来る。奴が来る。
来た。
来た。来た。来た。奴が来た。
また、一人奴の餌食になった。
そして、次に奴の餌食になるのは。
・・・・そう。
・・・・俺だ。
俺だ。
来たーーー!。
その瞬間、俺は闇に落ちた。
どうやら、俺は、生きているらしい。
そうか「こうやって、奴は、一人一人を闇の中へと連れて行ったんだ。」
何の根拠もなく、薄暗い闇の中で・・・俺は・・・そう悟った。
さて、俺はこれからどうすればいいんだろう。
歩くか。
どっちへ?
右か、左か、はたまた前か、後ろか?
俺の左手側には、何やら壁らしきものがある。
ひとまず、俺はその壁に左手を当てて、前へと向かって歩き始めた。
どれくらい歩いたのだろう?
不思議と、腹は減らないし、喉も渇かない。
気がついた時には、左手側の壁も消えていた。
が、辺りは、薄暗いままで、ぼんやりと空間が広がるだけ。
俺は、何処にいるんだ?。
そういえば、気がつく前は、俺は何処にいたんだろう。
そう、俺は誰だ。何者だ。
何も思い出せない。
思い出すのは、あの、闇に入る瞬間だ。
しかし、奴の姿は見ていない。
「奴!」奴って何だ??
わからない、わからないことばかりだ。
そんなストーリーを持った絵が・・・。
そこに並べられた何十枚もの絵を組み合わせると、そんなストーリーを持った絵になる。そんな絵の数々がそこにあり、そして、そこに描かれていた。
その絵描きの名は・・・「白鳥綜太」
彼の描く絵は、二十枚から五十枚程度でワンセットになる、絵物語が多くを占めている。
彼の描く絵は、諤諤(がくがく)とした絵が殆どだ。
そんな、彼の絵をコレクションしているのが。
白鳥汰市である。
綜太は、汰市のために絵を描いている。
汰市の心を絵で表現しているといっても過言ではないのかもしれない。
二
これは夢なのか?
汰市も、あの絵を見てから眠れなくなってしまった。
綜太のアートダイアリーを見てからというもの、いつも汰市は夢を見るようになった。
いつもとは、眠りにつく度に、という意味だ。流石の汰市も、この夢が汰市にとって何か特別な意味を持っていると思わずにはいられないのである。
そう悟った汰市の打った手は巧妙であった。
まず、汰市は、求人のために綜太のアートダイアリーから「あの絵」を選ぶと、それを巧打巧実臨床心理士に渡すと、「巧実先生、この絵を鑑定してはもらえないか?」と頼むと同時に、「あの絵」のコピーを取ると、
山下勉人事担当課長へ「これをポスターにして、『この絵から想定される、この絵を描いた人物の、性別、年齢、性格、病名をレポートで提出』させ、カウンセラーを1名採用する。」という頼み、というよりは、山下課長に命令をしたのである。
命令された山下課長もいきなりのことにビックリだ。
何故、このような絵を求人ポスターにして貼り出さなければならないのか、合点がいかない様である。
山下課長が白鳥先生に聞いてみようと思った時には、白鳥先生はもう事務室を後にしていて、正に聞く間も与えずに去って行ったのだった。
三
つづく