週末は秀男の家にも泊まりに来るようになった。あいも変わらず、どうしてそう上手く辺りを散らかすのだろうと感心するくらい、またたくまに彼女の周囲は持ってきた荷物や脱ぎ捨てた衣類や化粧道具が乱雑に放り出されていたし、気まぐれで何かをキッチンで作り始めると、流し台は野菜の切り屑で排水口が流れにくくなるくらいになり、もちろん汚れた食器は一切洗わなかった。
秀男は争いになるのを恐れて黙って傍で見ているしかなかったが、彼女が流し台を離れたことを確かめてから、ひとりで黙々と食器を洗った。
秀男の住んでいるマンションは建てられてから半世紀も経つほど古いものだったが、何回かリフォームがなされていてそれなりに内装はきれいに保たれていた。ただよく見ると、建具や壁のあちこちに上から重ねて塗料を塗ったことがわかるくらいの凹凸があった。その中でも一番目立ったのは、古く煤けて黒ずんだ襖の1枚に、天井から何かが滴り落ちたようにみえるシミであった。それは天井付近から壁を伝わり襖の上部に流れる込むような感じで、襖のその部分にはチョコレートのようなシミがしっかりと広がっていた。
「ここで女の人が行方不明になってるわ」
彼女が週末だけでなく、平日も泊まり込むようになって2ヶ月も立った頃、彼女はそのシミを見て急に真面目な顔をして言い出した。秀男ははじめ、何のことを言っているのか全くわからなかったが、襖のシミを見つめながら、
「大丈夫、悪い人じゃないから。髪の長い女の人よ」
と真顔で話し続けるのを聞いて、背筋にゾクゾクと冷たいものを感じた。
