神様はサイコロの目を見ない
■東京
給湯室で人影が見えた 主は中川智美だ。
キューポラの街出身 鋳物工場の娘で都内短大卒
英文タイプ3級持ちの、お局様 中川女史が以前はタイプ室を改装した給湯室で各人の湯吞みに熱いお茶を入れいるところ
、挨拶もせずに通り過ごせない。
「おはようございます お休み頂きありがとうございました」
「相原さん 羽伸ばして良い事有りましたか」
視線を俺に向けながらも急須は円を描くように周回しながら注いでいる、
もう芸歴何十年のベテラン芸と感心しながら
「毎度チョコレートで申し訳ございません 後で皆さんに分けて下さい」
給湯室内の湯気で俺の眼鏡が曇りながらも御土産品を差し出した。
帰国時の荷物の税関検査で御土産品を購入していないと検査官のチェックが厳しいのが分かってきたからだ。
始業開始前に室内に居る上司を始めに順次皆に年休消化の挨拶周りの儀式を終え自席で久し振りの業務処理が軌道に乗るのに少し手間取るも何とか出社一日目が終わった。
即帰宅の準備をしている俺に中川女史が来て
「相原さん 日比谷野音で秋闘 動員ね お願いしますよ」
「え 今から動員 聞い・・・」俺の返事も最後まで聞かず
「皆で揃って行くから集合」と声を掛けながらボブカットで派手
目の色合いが好きなはずが上着もスラックスも紺色の姿で元気に号令を発する定年退職までカウントダウンできる分会長の後ろ姿を追いかける。
公園を出てから数寄屋橋交差点・東京駅前・常盤橋公園で流れ解散コースなら良いが一周は嫌な俺は数寄屋橋交差点付近で フケル が今回は中川女史からプラカード持たされ若いからだけで シュプレヒコール係 何なんだと俺は納得出来ずとも致し方ない。
解散後は帰宅も出来ず2次会 これが楽しみで動員を引き受ける者達が各地に散って行くも、
俺は中川女史取り巻き連中からも逃げられず連れて行かれた先が新橋の常連の行きつけ、ビル地下街の歌声喫茶で中川女史から査問を受けるが如く聞かれ又、聞かされる。全学連東大女性活動家
の件は現実に見ていたかの様に聞かされると俺は脳内で逆算するも中川女史と年齢が合わないのにと思い何度も聞かされているため反射的に何度も頷き返すだけにしている。
酔っている小柄な中川女史が突然に話題を変えて俺の耳元で呟くように
「君の上司 北京でハニートラップに掛かり飛ばされて来たんだよ」
酔って潤んだ瞳と俺の視線が合ってドッキリする。
上司の件で驚いたがハニートラップの言葉で更に驚き額に冷や汗が出た
「え そんな 小説みたいな事が 本当なんですか」俺は少し狼狽しながら心中を探られていると思い中川女史の視線を外すと
「君は 分かり易いね」
中川女史に視線を戻すと笑顔でウーロン茶割りのグラスを差し出され何度目かの乾杯をするも瞳は冷やかで俺は時間が止まり賑やかな音響も消えて店内に紛れる公安総務課、外事第二課、所轄の公安捜査員達の幻影が見え身動き出来ず固まった。
(フィクションであり、実在の人物組織とは一切関係ありません)
(画像はイメージです)
↓続く