私はまた敬子を手招きで呼んだ。敬子は直ぐ来た。

 「卓也君に会いに行ってくる。どこにいるか聞いてくれ」

 私がそう言うと敬子は妙な目つきになった。もちろん、彼女は私がホモまでエサにしていることを知っている。

 「アンタ、卓也も狙う気ね」

 ソノ言葉を聞いて私は敬子を縁側の方に引っ張っていった。もちろん、義行に聞かれないようにだ。

 「お前さー、なんでそういう話になるわけ。人ん家に世話になるんだから、そこの家族に挨拶するのは当たり前だろ。オレはそこまで色キチガイじゃないぞ。とっとと聞いてこい」

 私は敬子の盛り上がったヒップをピシャリとたたいた。それを合図に敬子は床の間の義行のもとに引っ返していく。

 「兄さん。卓也、今日どうしとるの?アレが挨拶したいんだって。工場行きよる?」妹は兄に聞いた。

 「ンにゃ、工場はシフトで休みじゃけん。わしの畑手つだっとる」義行は応えた。

 「畑におるそうよ。アテも行こか?」

 敬子が戻ってきて、そう私に報告する。

 「アホッ、おまえは兄ちゃん見張ってろ。アレ、携帯持ってるのか?」

 「持ってるけど、ほとんど使わないみたい」まだ、敬子は妙な目つきで見つめている。疑いは晴れてないようだが、とがめてみてもどうにもならない。

 「ふむ、一応は見とけ。あと、黒電話と外出に気をつけろ」私は念押しした。

 「はい、はい。昼ご飯までには帰ってきてね」

 「畑はどこよ?」私は行こうとする敬子を呼び止めて聞いた。

 「家の前の道を歩いて行きゃー自然とわかる。広々としてるから。畑しかないから。ロン毛ですらっとしとる」

 敬子は手を振って歩み去る。私も玄関から外へ出た。

 ”イケメンだというから楽しみだなあ。ホモは久しぶりだあ”

 私は上機嫌で20メートルも歩いた所で、道の行く手の真ん中に奇妙な生物が立っているのに気づいた。その距離、15メートル位、かなり近い。結構な大きさでハッキリ犬ではない。私はその正体にきづいたとき、ギョッとなった。割となじみのある動物で、ニュースや動画にしょっちゅう出て来る。イノシシだった。今年は増えすぎて、駆除の対象になっていると聞いた覚えがある。でも、本物を見たのは私としては始めてであった。丸々とした印象である。黒い毛がフサフサとして、口の両側から白い大きな牙が突き出ている。アレでグサッとこられては溜まったものではない。今のところ動かないが、急に突進してくる場合だってあるのではないか?私は固まってしまって一歩も動けなかった。イノシシも動かない。

 結構、長い時間が過ぎた。イノシシはモッサリした感じで、いつまでも静かに立っている。怒っているいる風もない。奴は奴でこちらを観察しているのだろう。そっちは四つ足で安定しているだろうけど、こっちは二本足の分、長くなれば長くなるほど辛くなる。

 しかし、なんだろうな?真っ昼間、人はおろか犬猫一匹通らないとは。いくら田舎とはいえ、こんなのありなんかい。人が何かにすがりたいと思っているのに。他の惑星にいるみたいだ。私の脚は恐怖と疲れでガクガク震えてきた。だが、どんなに恐くても辛くても、背中だけは見せまいと固く誓った。背中を見せたらやられる。それは確実な気がした。

 

                        続く