ブラブラと駐車場にたどり着いた。そこは小さな教会に隣接する草ボウボウの囲いすらないタダの空き地だった。一応、砂利は入れてあるが長い間に踏み固められて地べたに埋没してしまい地表にデコボコを作っている。水はけが悪いため、雨が降るとそのデコボコにすぐ水が溜まってしまう。逆に、晴れた日が続くと車が真っ白になるほどホコリが舞う。それに夏場は生い茂る雑草の中で充分に育った虫が窓を開ければすぐに飛びこんでくる。これだけ劣悪な条件が揃っていても、月極料金は相場より少しだけ割安でしかない。ボッタクリだ。それでもこの辺には適当な駐車場が少ないため常に満杯の状態である。

 コウジの持ちスペースは敷地の端の方で、ドアを開けるにも鎌がいりそうなほど強靱な雑草が密生したところだった。オマケに錆の浮いたジャリトラの隣ときている。コウジは入所した時からこの大きな車が動いた様を見た記憶がない。首尾一貫してまるで呪詛のかかった建築物のようにデンとふんぞり返っている。だから毎度毎度、窮屈な思いで自車を出し入れしなければならなかった。

 コウジの車は普通の4ドアの箱車である。年式の古い車だからマッチ箱のように角張っている。手に入れた当時は嬉しくて磨き込んだりしたモノだが飽きてしまった最近はほったらかしにしている。アチコチに傷がついてしまった。古さもそうだがホコリまみれだから、素焼き器のように光沢なくくすんでしまっている。ようするにその辺の道端から拾ってきたようなポンコツ車にしか見えなかった。それでもスピードだけは今でもソコソコ出るのが不思議である。

 コウジは座るなり燃料を確かめた。ホッと胸をなで下ろす。半分ほど入っていた。自分がろくすっぽ食ってもいないのに、なけなしの金で車に食わすことは業腹だった。すぐに窓という窓を全開にする。久しぶりに乗るから酷い匂いがしていた。食い散らかして隅っこに押しやったモノが腐って発酵しているに違いない。

 こないだ拾った女は飲み過ぎてゲロを吐きやがったんだ。おっと、コウジは嫌なことを思い出して恐る恐る後ろを確かめた。運転席の背もたれに褐色の細長い物体がこびりつき乾いて垂れ下がっていた。コウジがとっつきを爪で擦ると剥がれ音を立てて下へ落ちた。フロントガラスにへばりついているバッタやてんとう虫はさておき、ハンドルや計器類類もホコリにまみれている。これでは気持ち悪い。元々彼には、妙な案配で潔癖性が顔を出す所があった。なんとかしようとサイドシートのゴミの山を探る。手早く拭くモノでもあればとの考えだった。ようやく引っぱり出した布切れは汚物の付着した女もののショーツだった。

 彼は顔をしかめたが他に変わるモノなどありはしない。仕方なしにソレに唾してあらゆる所を拭きハンドルを擦り上げた。使い終ったショーツは窓から放り捨てた。彼は気づいてないがソレが落ちた所には色とりどりの同様なモノが幾重にも重なっている。

 ”サーテ、行くかい?コウジ君”

 彼は頭で独りごちて、ハーイと声にして答える。金子あやみに声をかけられたことで気分はスッカリないでいた。

 ガソリンがこうならと、横目で水平を保っている燃料ゲージを確認した。

 ”なんか食っていこうじゃネエか?”ハーイとまた声に出して叫ぶ。

 彼はユルユルと草地から愛車を発進させた。

 

                           続く