体をつかまれ車に引きずりこまれる時、ミチは自分の運命が悲しかった。男の暴力に屈してなすすべもない。本当にガマのようだとも思った。ガマのプクンと膨らんだ腹や曲がったままの手足が意識に湧いた。道に盛り上がったヌメヌメとした臓物もサッと脳裏をよぎった。それが己がモノとダブった。身震いするような怯えが起こったが、もっと激しい感情が底にあるのを彼女は察知していた。だから、薄い皮を一枚めくることにした。父の顔がある。皮の厚いヌメリのある黄色い顔だ。その横には母の生臭い顔もある。同じようにヌメリを帯びている。父は母と同じように、わたしにもポーズをとらせた、、、。

 

 ミチは垂れてくるモノを手で拭った。サラサラとした赤い血だった。彼女はあわてて傷口を押えた。ブヨブヨしていて痛みの走るところもある。軽度な負傷だと思っていたがそうでもないようだ。彼女は明の凶暴性を再確認し、叫びだしたがったが暗い気持ちで押し黙った。やがて沼地の繁みに押し倒され、彼女はそこで尻をかかえられた。明の荒々しい行為は執拗に続き、彼女は不意に北条満のことを思い出した。深度や連続性が似通っていたからだ。

 「ミツル!ミツル!」

 彼女はミツルを愛していたので、感きわまって泣き出し自らも体を揺さぶり始めた。

 「オレはミツルじゃねえぞ!」

 明は腹を立てたのか、泥のついた手でミチの膨れた尻をたたきまくった。

 「オレは明で、オメエは糞ガマ女だ!」

 彼はそういった瞬間に果て、覆い被さるようにミチにのしかかった。耐えきれないような重圧だと感じた。胸が潰れそうで苦しく息ができなかった。だが、明の精液がしみこんでくると彼女はユックリと解放されていった。

 

 「オメエはオレをミツルといったな。なんでだ?」繁みから車に戻った時、明がいった。

 「ミツルを知らないかと思って、、、」ミチはボンヤリと前の方を見て、逆に尋ねた。

 「知ってるとも!ヤツはどうしようもない阿呆でろくでなしだ。だが、オレが知りたいのはオマエがどうしてオレとミツルを間違えたかってことだ」

 明はキイを回した。ワンと鳴り、その音に驚いたマダラの鳥が羽を広げて右から左に飛び去った。

 「わたしが知りたいのは居所なのよ」ミチは静かにいった。事実、興奮も恐怖も治まっていた。

 「そいつは知らねえな。生きてるか死んでいるかもわからねえ。ナア、どうしてオマエはオレをヤツと間違えたりしたんだ?」

 横を向いた明のサングラスが鈍く光った。車はゆっくりスタートしている。

 「入ってきた時、似てるって感じたのよ。それでもって、突き方も同じようだった」

 ミチは感じていたことを正直に答えた。

 「ホウ、そんなこってオレをミッチと間違えたのかい?コリャ、ユウジのいったことは本当だな。ヤツは女の脳みそはマXコだっていってんだぞ!」明は唇をねじ曲げて笑う。

 ユウジ?ミチは異性のことにひどく敏感だったからとっさに頭をめぐらせた。

 ショウジ、コウジ、テイジ、リョウジ、シンジ、、、似たような名前と共にいろんな男の顔が浮かんでくる。だが、どうも正確には一致しない。これは頭を殴られた後遺症かもしれない。

 ユウジ、いったいどんな男だったっけ?

 

                           続く