「なにしてんだ?オメエ」
背後で声がした。ミチが振り向くと小川明が立っていた。
「アンタはガマを轢いたんだよ」ミチはいった。
「ホウ、そうかい。オレはおまえを見たから車を停めただけだ」明はミチの傍らにある醜い盛り上がりを確認したようだ。
背の高い痩せぎすの若い男で、犬の糞のように真っ黒で硬そうなサングラス。バサバサの不潔そうな髪が肩まで垂れていた。衣装はというと、ヨレヨレの色の褪せたTシャツにこれまたヨレヨレで穴の開いたジーパン。浜辺では重宝しそうなゴム草履を履いている。
「アンタはガマを轢いたっていってンだよ」ミチはサングラスの奥を睨みつけるようにいった。
「だから、それがどうしたってんだよ。ガマを轢いたら人殺しにでもなるのかよ?そんなことはネエだろうな。ガマはいくら轢いたってガマで人殺しにはなんねえだろう。だとしたら、おめえは、、、」
その物言いの最中、大きな運搬車がふたりの脇を猛スピードで通過した。だからガマの痕跡はほとんど拭い去られた。それを確認すると、ミチは響き渡るような大声で喚いた。
「わたしのかわいがってたガマだったんだよ。腹を押すとグエーッと鳴いたんだ」
「ヘエ、そうだったのかい!」明も負けずに大きな声だ。「じゃ、どうしてオメエはその可愛いガマを道端に置いたりしたんだ?実をいうとオレは、オマエがそうするのを遠くで見てたんだ。簡単なようでも難しいぞ。車でガマを轢くってことはよ。でも、オレはそれをやり遂げたってわけだ」
「この、ド畜生!」
怒りと悲しみが突き上げてきて、ミチは明の胸ぐらに向かって突進した。でも明はそれを予期していたようだ。ヒョイと体をかわし逆に拳を振るった。ミチは側頭部に衝撃を感じ地べたに転がった。
「このアマ、ガマみたいな顔しやがって、なにトチ狂ってんだ!」
明はメチャクチャに手足を出し、ミチはそれを丸まって防いだ。明の身のこなしや受けた衝撃でその力量は確かめたし、そうすることが一番だと判断したからだ。やがてその攻撃はやんだ。
ハアフウいう息づかいの中で怒鳴り声がする。
「車に乗るんだ!この糞ガマ女!そうしねえとオメエも道の真ん中で轢き殺すぞ」
それは虚ろなミチの意識に突き刺さっていた。
続く
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