双方の間隔はアッという間に縮まった。5人の襲撃隊は気合いもろとも一斉に日本刀を振り上げた。京極はそのギラギラする反射光に目を奪われているうちに犬神の姿を見失った。
肉と肉がぶつかって裂けるような不気味な音。キンキンいう金属音と火の粉。風を切り走っては消える刃の光。怒号、悲鳴。
突如、京極の足元に何かがゴロゴロと転がってきた。よく見るとそれは目出し帽をかぶった生首であった。次にはダンビラを持ったままの腕が飛んできた。
このようにして格闘は数分間続いたわけであるが、京極はその間どうしても犬神を視野に捕らえることができなかった。だから、彼には襲撃隊同士が同士討ちしているように見えていたのである。
やがて襲撃隊の何人かが蜘蛛の子を散らすように逃げ去って格闘は終った。その時に始めて京極は犬神三郎が濡れた日本刀を片手に仁王立ちしている姿を闇の中に見つけたのだった。
犬神三郎が近づいてきて血まみれの刀を渡したので、京極は反射的に上着を帰した。犬神が上着を羽織っている。不思議なことに返り血ひとつ浴びてない。
「ご苦労さまでした」京極は感嘆をこめていい、汚れた日本刀を転がっている生首の方へ放った。
「どうってことねえよ」犬神である。
「でしょうね。主任にとっては大根切るのと一緒だ」犬神は剣道日本一に4度もなっている。
「さて、ナオを探さなくちゃなんねえ。着いてこい」
ふたりは襲撃隊が乗り捨てていった車の方へ向かう。その途中は血の海である。のたうち回っている人間が何人かいた。車を全部調べたが辺見の姿はない。
「その辺を別れて探しましょうか?」京極が何気なくいった。すると、犬神が京極の袖口をガッシリと掴んだ。
「逃げようたってそうはいかねえぞ。京極。オマエは何とかオレを置き去りにしょうって魂胆だろ。その態度が見え見えなんだよ」
「違いますよ。主任。これだけ広い場所だから分かれて探した方が早いと思ったまでですよ」
「そんなことわかるか。どうもオマエは信用できねえ。それに襲ってきた連中がまたぞろ引っ返してきたら、オメエはどうするつもりだ?」
「それもそうですね。ヤッパリ一緒に行きましょ」
それで、ふたりは外を中心に前庭、駐車場、資材置場、給油所、テニスコートまで調べ回ったが辺見の姿は発見できなかった。
「辺見さん、うまいこと逃げたんですよ」道々、京極がいった。
「だろうな、ヤツはアア見えてもすばしっこいからな」犬神が答えた。携帯はあれっきりつながらない。
「もう、あきらめて引き上げましょうよ。辺見さんはきっと無事ですって」
「そうだな。そうしよう」
犬神は意外に簡単に賛同した。ふたりはブラブラと中庭に戻ってきた。すると驚いた。襲撃隊の車が2台ともなくなっている。それどころか、転がっているはずの死体やケガ人、切りとられた首や腕の体の部分、抜き身の刀までが見あたらない。オマケに、血の海だったコンクリの床までが水で流されたのかサッパリと綺麗になっていた。
続く