雀は固かった。そして接着剤のように粘り着いた。京極進は何とかそれを氷水で胃袋に流しこんだ。その時である。優雅な音楽が流れてきたのは。犬神のスマホの着信音に違いなかった。犬神三郎は脱いでいた上着を探ってスマホを取りだした。案の定、辺見直介だった。犬神が何もいわないうちにその声が飛びこんできた。

 「サブ、助けてくれ。スッカリ囲まれちまった」

 「なんだと、どうした?」犬神三郎はあわててスマホを耳に押し当てた。

 「だめなんだ。逃げられそうもない。スッカリ囲まれちまって、、、」

 「落ち着け、ナオ。場所はどこなんだ?」

 「こないだのトラックターミナルだ。だめだ。ヤツラが来る、、、」

 「わかった。すぐ行く。すぐ行くから諦めるんじゃねえぞ。持ちこたえてろ」

 犬神は立ち上がった。「京極、ナオがヤバい。いくぞ」

 もう、駆けだしている。京極も大あわてで後に続いた。大きなしゃもじを持った女店員に、警察手帳を見せ万札を握らせて外へすっ飛び出る。車は通りにつけてあった。ふたりは飛びこんだ。

 「主任、場所はどこなんです?」京極がエンジンをかけながら聞く。

 「工業団地奥のトラックターミナルだ。構わねえからすっ飛ばせ」

 京極は回転灯をだした。サイレンを鳴らす。彼の車は大きなハードトップである。馬力が強い。エンジンが唸りを上げ、狂った獣のように突進していった。

 

 上から見ると仕切りのあるだだっ広い空間に大きな建物が建ち並んでいる。アッという間にトラックターミナルに着いた。そのひとつひとつがスケートリンクのようなツルツルしたプラットホームを備えつけていて、その一部分に灯りが着き、大型のトラックがそこに尻をくっつけて中のものをだすか、反対に積み込むかの作業を行っている所もあった。

 犬神三郎は共益所の赤いランプを目印に車を進めさせた。その脇の通路をすり抜ければ、例の壁に囲まれた殺風景な中庭に出ることを記憶していたからである。ふたりはそこで車を降りた。

 周りは暗くはあったが、屋上にライトをつけている建物もあり、努力すれば辛うじて遠くを見渡せる状態であった。その遠くに背の低い車が2台停まっていた。距離にして約20メートル。すぐに小さな光りが続いて見えて複数の人影が現われた。

 「主任、おいでなすったようですよ」京極が緊張していった。

 「ナオ、いるかーっ」犬神がその方角に向けて怒鳴った。返事はない。そのかわりにバタンバタンと音がした。車のドアを閉めるのもいれば閉めないのもいる。人影は無言でひとところに集まり、しばらくしてから動き出した。手には一様に光り物を握っているようだ。

 「主任、ヤバいですよ。連中、ダンビラ持ってる」京極は逃げ腰でいった。

 「全部で何人いると思う?」犬神が問いかけた。

 「サア、5,6人ですかね?ともかく、車に戻りましょうよ」

 そういっている間にも、人影はユックリと近づいてくる。驚いたことに全員が戦闘服を着て、顔を黒く塗るか覆面をしているようだ。コツコツという長靴の音もハッキリと聞こえるようになった。

 「フン。正確には5人だな。おまえはここにいろ」

 犬神がついと上着を脱ぎ、京極に預けた。まるで用足しにでも行くような気楽なムードである。次にシャッとこすれるような音がした。どうやら、犬神が歩きながらズボンのベルトを外したようだ。

 

                            続く