「もちろん、兄貴が聞き捨てにしないと思ったからだよ」剣持の醜く歪んだ下顎が動いた。「兄貴は指をソックリ詰めてしまうほど筋を通す人間だ。京極と向井を放っておくなんてできっこない」

 「あたりめえだろ。人間、犯した罪は償わなきゃなんネエ。とりあえずはオレたちだってそうしてる。たとえ、デカだって例外じゃないと思うがな」

 「ところが兄貴、それが違うんだ。ヤツラはその例外なんだな。とにかく、この世の中にはどうすることもできない人間がいることをわかってほしい。いっとくが、女どもは生きては返らないぜ」

 ダンゴはギクリとした。真弓が死に、弓が失踪したことをまだ剣持には話してない。

 「刑事がそんなに恐ろしいのかよ?」

 ダンゴは動揺を抑えるため、しばらく沈黙した後いった。憤怒の泉に浸した布のようにジワジワと怒りが広がっていた。

 「恐ろしいね。ヤツラは特にだ。ヤツラ自体がバケモンだし、後ろには犬神みたいな大バケモンもついている。かかわりあいにならないようしたいようにさせとくしかねえ」

 「バケモンだろうとなんだろうと、やったことの責任はとらなきゃなんねえだろう。それが筋ってもんだ。けど、勘違いすんなよ。オレが、自分でなんとかしようとしているとは考えんなよ。オレだって、あからさまにヤツラに向かっていくほど馬鹿じゃねえ。ケド、ヤツラが法を犯したってことは事実なんだ。何の罪もネエ女を殴り殺した。ヤツラが犯人だとチンコロすりゃ、警察がヤツラを捕まえて仇を討ってくれる。電話一本、かけりゃすむことだからよ」

 ダンゴがそういい終るやいなや、剣持が猛然と動いた。壁掛け電話を壁から引き剥がすと狂ったように床にたたきつけた。

 「兄貴、携帯を渡しな。たたき壊してやる!」

 「なにすんだ!このヤロウ!大事な電話をよ」

 ダンゴは大声を上げて剣持に向かっていこうとした。だが、それより早く剣持が体当たりしてきてダンゴを壁に押しやり胸ぐらを締め上げた。その圧力はダンゴがこれまでに経験したこともないような恐ろしいモノであった。

 「兄貴、ヘタなことすりゃ、オレたちは間違いなく消されるんだぞ。クズのようなヤクザもんが死んだところで、だあれも気にも止めない。どうしてそのことがわからねえんだ?馬鹿なふりをしてろ。これまで通り、何にも知らねえような馬鹿なふりをしてるんだ」

 その時、階段で物音がした。誰かが降りてこようとしているのだった。内側を明るくしてあるので、長い影がしたの廊下まで伸びている。どうやら2人組のようだった。コツコツコツコツ。2人組はユックリと下に降りてきた。

 剣持は彼らの顔を見て、京極と向井でないことを知るとヘナヘナとその場に崩れ落ちた。そのおかげでダンゴは苦しかった胸ぐらを解放されて、どうにか声をかけるタイミングを失わなかった。彼はスカーフェイスをねじ曲げ陽気に挨拶した。

 「いらっしゃい」

 

                         続く