「兄貴、コーラふたつに焼きそばふたつだとよ」宗像がいった。

 「そんなモノねえ。女がいねえんだ。断ってくれ」

 「ソリャー、いけねえよ。兄貴。客は大事にしないとな。コーラと焼きそばだろ、造作もねえことじゃねえかい」

 そういって宗像は調理場に入っていき、冷蔵庫の中を調べた。そして出てきて柳田信夫にいった。

 「何にもないが氷だけはある。ノブ、ひとっ走りしてコーラと焼きそば、買ってきてくれ」

 「コーラはわかるが、焼きそばたってどんなものよ?」柳田が聞く。

 「カップのでいいんだ。インスタントのヤツ。大盛りの方がいいな。デッカいやつ。オレも食うから少し余計に買ってこい」

 「兄貴は?」柳田がダンゴに聞いた。「食いますか?」数は買うけど、ラーメンにしてくれというかもしれないと思ったのだ。

だから、とりあえずのことだった。

 ダンゴが黙ってうなづくと、柳田は階段を昇っていった。

 「お湯はオレが沸かすから、兄貴は氷を出してくれ」

 ふたりは調理場に入った。宗像が薬罐に水を入れると、角形の製氷器を持ったダンゴが寄ってきて礼をいった。

 「ありがとうよ。昭三」

 宗像は少しはにかみながら、何もいわずに薬罐をガス台にかけた。

 

 柳田信夫が戻ってくると、料理はすぐに出来上がった。食器類はあらかじめ水洗いされ、乾いた布でピカピカに磨いてあった。カップ麺は熱湯を抜かれて、ふたつの皿に盛りつけられた。湯気が立ちいい匂いがし、柔らかそうでみているだけで幸福な気分になってくる。そんな食い物に仕上がっていた。その横に氷を山盛りにした大型のコップが添えられた。その中に、柳田が溢れるほど買ってきた缶コーラを注いだ。何本もある。パチパチいう刺激的な音を立てて、溜まっていく黒い液体は吞めば確かにうまそうに見えた。柳田は上着を脱いで腕まくりをし、それらを大きなお盆にのせて奥の注文客の所へ運んでいった。

 ダンゴも宗像も片方の手を不自由にしているので客の前には出れない。だから柳田がチョコマカ動いた。すぐに引っ返してきて、今度は自分たちの食べ物の世話である。包装を破り、カップにお湯を注いでゆく。飲み物は客にだしたものとソックリ同じモノが作られた。柳田は手慣れた様子でテキパキ動く。ダンゴと宗像はそれを呆然とみていた。柳田がころあいと思ったのかカップの中のお湯を捨て始めた。あとは小さな袋を破ってソースと具材をふりかけて麺を混ぜ合わせればできあがりである。その袋も柳田がハシと一緒に添えてくれた。

 「サア、食いましょうよ」

 柳田は蓋を開け、袋の中身をふりかけると丁寧に麺をかき混ぜている。ダンゴは左手の指がソックリないとはいえ腕自体は動くのでカップを押さえつけ何とかできたが、宗像は利き腕を吊っているので蓋を開けるまでが精一杯だった。

 「待ってろよ、昭三。オレが混ぜたヤツやるからよ」

 はじめからそのつもりだったらしく、柳田はカップ麺を取り替えようとした。

 「そこまでしなくていい」宗像は自分の食い物を押えた。「オレが席をかわればいいんだからよ」

 宗像と柳田は席を替わった。狭い調理場で椅子を引いたり戻したり、案外と面倒なことだったがふたりは無事にそれをし終えた。宗像の表情は硬く、酷く内面を傷つけられたように見えた。彼にすればダンゴの面倒をみるのはじぶんの役目のはずで、それができないどころか自分も人任せになっていることが歯がゆかったに違いない。宗像は仏頂面のまま闇雲に麺をかき込み始めた。

 

                         続く