一番乗りだった。

 京極進と向井真彦は救急車より早く現場に到着した。パトロール隊出身の向井はその辺の土地を知り抜いていたし、彼の運転技術とBMWのパワーがものをいった。

 人の影はなかったが、2台の車の側に手足の曲がった人間が蠢いていた。犯人の下田英孝に違いなかった。京極と向井は足を止めしばらくその様子を見入った。吐き気がするほど醜悪で無残であった。

 「酷いことするなあ。たとえ犯人とはいえ人間をこんなにしちゃっていいもんですかね?」

 向井が首をフリフリいった。

 「毎度のこったよ」京極がいう。「主任の愉しみだから仕方ないんだ。ただ、人間を素手でこんな風にできる人間が存在するってことは問題だけどな」

 「ぼくもそう思いますよ。これなら、撃ち殺してしまったほうがいい。もちろん、コイツはすぐ死ぬし、人間の残酷さが後々まで残らない」

 「誰かが来るまでコイツの側にいてくれ。ぼくは家の中を見てくる」京極は戸の開いていた家の方に入った。

 窓と雨戸は全て開け放たれ風が通っている。奥の部屋に犬神三郎と辺見直介が並んで突っ立っている。辺見はジャケットを脱いだ柄シャツ姿の格好でニコニコ笑っている。壁の黒い死体も目に入ったが、京極はふたりの足元の洋服にくるまれた人間のほうに近づいた。

 娘が目を開けて、京極を見ている。京極はその目蓋を指でひっくり返して調べた。次に、口を開けさせ中をのぞき込む。

 「大丈夫です。死ぬことはない」彼は立ち上がって、前のふたりにキッパリといった。

 「ハハッ、ヤッパリそうかね。こいつは大手柄だぜ」

 上着はおくるみに使ったのだろう。柄シャツ姿の辺見直介はこれ以上にないほど、手を叩いてはしゃいでいる。

 「だけど、辺見さん。なぜあなたがここにいるんです?」京極は犬神をチラリと見ていった。

 「こまっかいことはこの際抜きだぜ、京極。事は一刻を争ったんだ。娘が生きてる。このことだけで充分じゃねえかい?」

 辺見直介がいう。横の犬神三郎も無言で相槌をうっている。

 その通りだった。前代未聞の重大事件が解決をみたのだ。しかも、最も好ましい方向でだ。周辺の些末なことは後に押しやられるに決まっている。猫田や諸星の歓喜した顔が脳裏に浮かんだ。

 「京極。外に転がってる下着泥棒を見たか?」犬神三郎が京極を見つめながら犬歯を見せた。

 「まったく、オメエはいいタマだぜ」

 「よせよ、サブ。そんないい方はよ。京極がいたからこそできた仕事には違いねえんだからよ」

 辺見直介は本当に嬉しそうだ。肉まんじゅうのような体が今にも踊り出しそうである。

 京極は感慨深げにその場に立ちつくしていた。その時、開け放たれた窓から突風が吹き込んできた。パタパタいう音も同時に聞こえてくる。ヘリコが舞い降りてきたに違いなかった。彼は残った仕事を全うするために急いで外へ出た。

 

                         続く