京極進は股間がシビれるような感じで目覚めた。いやらしい夢の続きかと疑って手をやってみる。固いものが振動していた。いつの間にかスマホがそんなところに潜り込んでいたのだ。なんとなく取りだして眺める。途端に犬神三郎のがなり声が飛びこんできた。
「京極!大至急、猫田検事と連絡を取れ。救急車を一台よこすんだ」
「いったい、どうしったっていうんです?」京極は跳ね起きた。
「ウルセーッ、呑気こいてんじゃねえぞ。あわてろ。犯人を捕らえた。娘は生きてる」
「なんですって!」京極は仰天してそのまま立ち上がった。
「アホ!みなまでいわせるな。一刻を争う。娘は生きているんだ。虫の息とは思うがとりあえずは生きてる。早くしろ!」
「わかりました!現場は?」
「下田英孝の持ち家だ。垳の2街区、分田上町仲野分3番地だあ。原っぱの2軒長屋なんだ。とば口に街路灯があるし、近くに携帯のでっかい電波塔が立ってるからすぐわかる。オリャ、こんな所でどうしていいかわからねえんだ。早くしろ!まったく、オメエはよう、、、」
京極は電話を切った。やはり、下田英孝が犯人だった。自分の考えが的を得ていた。上坂多枝も考えに同調していたので、まず間違いはないと思ってはいたが、現実にそう決まってみるとやはり無性に嬉しい。しかも、娘は生きているという。奇跡が起きた。海を割るのと同等の奇跡である。信じられない。
京極は寝室のドアを蹴破った。
「向井!起きろ。起きて電話しろ。緊急回線で地方局の猫田検事を呼びだせ。主任が誘拐犯を捕らえた。県知事の娘は生きている」
「アアーッ」向井真彦が飛び起きた。素裸のまま、ナイトテーブルの上の電話機を操作している。その横で根本加代がのっそりと体を起こした。コチラも裸である。電話が繋がったようだ。向井が受話器を差し出した。
執務中だった猫田史朗は我が耳を疑った。京極進は犯人を捕らえた挙げ句に美加子ちゃんを救出したという。
事件発生から数千人に及ぶ捜査員を動員して犯人の陰さえ掴めなかった。藁にもすがる思いで、犬神と京極に特命を下したのは3日前のことだった。たったそれだけの間に、、、。
歓喜のあまり目頭が熱くなって涙が一筋二筋こぼれ落ちた。土壇場での勝利は誰でも嬉しい。彼は雄たけびををあげながら執務室をすっ飛び出ていった。
続く