一部始終を見ていて救急車が去ったから出てきたのだと向井は思った。狡猾な男だとの軽蔑しかない。だが、その顔を見るとすすり上げた太い陰茎を思い出す。それでアヌスを突いてもらいたい気持ちは捨てきれない。

 「キョーゴク、今頃ノコノコきくさってよ。機捜の名が泣くだろ」

 杉山が非難した。横の藤森は黙ってにが笑いしている。

 「すいません。寝てたんです」京極は頭をかいた。そして、素っ頓狂な声を出す。「アレーッ、主任は?」

 途端に、杉山がガクッと肩を落とした。「きてない。連絡が取れないんだ」ボソリという。

 「そうですか。隊長は出張、デンさんは非番。マア、半分も揃えば一応の顔も立つでしょ」京極は落ち着いたモノである。

 「そうだな。夜中でもあることだし、気張る事件でもなさそうだしな」藤森が助け船を出した。

 「でも、意識不明の女が死にでもしたら殺しに早変わりだ」杉山がいう。

 「そんなにひどいんですか?」京極である。

 「ああ、首の骨が折れてるそうだ」

 「もうひとりいたんでしょう?」

 「コイツは意外と軽い。鼻を潰され前歯を飛ばされたが意識は戻った。そうじゃなかったら、あの外道どもにワッパかけるところだ」

 事件通報者のダンゴと剣持のことをいっている。杉山のどんぐりまなこが鈍く光っている。

 「事件の概要を聞かせて下さい」京極がいった。向井は横で息を吞んだ。

 「男がふたり、客として入ってきた。ガイシャは見るなり怪しいと思ったそうだ。他に客もいなかったし恐くもあったから一番奥のボックスに通した。ところが、そのうちのぞいてみようということになったらしい。彼女たちは時々、そんな悪さをやっていたらしいんだ。そしたら、ひとりがひとりのチンXをしゃぶってた。ホモだったんだな。それで、彼女たちは見つかって部屋に連れ込まれて殴られた。こういうことだな、大体は」杉山が説明した。

 「で、加害者の特徴は?」京極がシラッとして聞く。

 「ふたりともスーツを着ていたが、サラリーマンというより、もっととっぽい感じでホスト風だったらしい。年は両方とも20代後半。だから、彼女たちも興味をそそられた。ひとりは色黒で長身、ロン毛。もうひとりは色白で華奢な感じ、黒眼鏡をかけていた。かなりハッキリと覚えていて、もう一度会えば特定できるといっていた」

 「どこにでもいそうなタイプですけどね」京極は平然という。感情の動きは微塵もない。「で、これからの段取りは?」

 「コイツはモリトウさんのところの事件だからな」杉山が藤森を見ていった。

 「ま、夜も更けたことだし、適当に聞き込みをして解散しよう」藤森がいった。

 「帳場は立つんですかね?」京極が聞く。入口に何やら事件とかいう戒名の垂れ下がった捜査本部のことである。

 「立たないだろうな。根のない衝動的な事件でもあるし、ガイシャも一応は生きている」藤森が答えた。

 「現場を見ても構いませんか?」

 「ああ、そうしてくれ。ただし、鑑識の邪魔はしないでくれよ」

 藤森は笑った。見かけによらず気のいいところもあるようだ。

 「ほんじゃ、これでとりあえずはお開きにしようか」杉山はいった。

 「待って下さい。ガイシャの住所氏名を教えて下さい」

 「お、さすが京極君。いうことが違うね」杉山がちゃかした。

 藤森が警察手帳を広げて明るいところにかざした。京極と向井はそれを素早く書き取った。

 「ふたりとも塩砂中央病院に担ぎ込まれたそうですよ」向井が手帳をしまいながら京極にいった。

 「フーン、じゃ失礼します」

 それをしおに、4人は敬礼して二手に分かれた。杉山と藤森はパトカーに乗りこみ、京極と向井はビルの階段を降りていった。

 

                        続く

 

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